部下からメンタル不調の相談を受けたとき、上司はどう対応すればよいのでしょうか。産業医で精神科医の井上智介さんは「励ましたりアドバイスしたりするのはNG。聞き役に徹し、まずはじっくり話を聞いてあげてほしい」といいます――。
会議室で面談する社員
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「言うべきではないこと」を言う上司は多い

「最近よく眠れないし、全然疲れが取れずまったく気力が出ないんです。メンタル不調なんじゃないかと思うんですが……」

部下からメンタル不調を打ち明けられたときには、どんな対応をするとよいのでしょうか。

上司にメンタル不調について相談するのは、相当な勇気が必要だったはずです。特に、精神状態や体調がよくないときですから、後ろ向きなことばかり考えてしまいドキドキしながら話しかけてきていると思います。上司には、そうした部下の思いを汲んで、丁寧に対応してほしいところですが、急なことに驚いて、本当は言うべきではないことを言ってしまう人がたくさんいます。

NGワード①「頑張れ」

「メンタル不調の人を励ますのはよくない」ということは、以前に比べれば比較的知られるようになってきましたが、それでもまだ、つい「もう少し頑張ってみろ」「ここが踏ん張りどころだ。頑張れ」などと言ってしまう上司は少なくありません。

部下は、不調を押して、既に頑張っているのに、まだ「頑張れ」と言われてしまうわけです。「上司から見ると、自分はまだまだ頑張れていないのか」と自信を失い、さらに気分も落ち込んでしまいます。

そもそも本人は、「もうこれ以上は頑張れない」「意欲や気力が出てこない」ことに苦しんで相談しているのに、励まされると追い詰められてしまいます。

NGワード②「気分転換に飲みに行こう」

コロナ禍で、飲み会や会食の機会は減りましたが、やはり気をつけたいのが「気分転換に飲みに行こう」です。誘った上司の方には悪気がなく、「ちょっと仕事から離れたところでリフレッシュしよう」「会社の外のほうが話しやすいのではないか」と気軽に誘ったのかもしれません。

しかし、メンタル不調だと、せっかく誘ってもらっても、楽しむだけのエネルギーがないので、余計に疲労感が増してしまいます。「少しでも元気になってほしい」「リフレッシュしてほしい」という上司の期待に応えられないので、罪悪感も抱えてしまいます。

同様に、家族から「旅行にでも行ってリフレッシュしよう」と誘うのもやめた方がいいでしょう。ほかの家族が楽しんでいても、自分は楽しめない。また、家族が自分を楽しませようとしてくれているのに応えられないのもつらくなります。