「売り言葉に買い言葉」では損をするだけ

それでも、そこで売り言葉に買い言葉でやり返せば鉄道事業者側が損をするだけである。極端な例だが、殴られたからといって殴り返してはいけないのである。どんな場面でも冷静に粛々と対応するしかない。これくらいなら感情に従って言い返しても許されるだろうという基準を作ってしまうと、旅客が全面的に悪いケース、必ずしも旅客の責任とはいいがたいケース、事業者が責任を負うべきケースと、段々とハードルが下がっていき、乱暴な対応が身についてしまうことすらあるからだ。

すべての駅員が完璧な対応をとることができるかといえば、それは難しいと言わざるを得ない。駅員が旅客対応をすべて1人でこなさなければならないというのは非現実的な議論である。駅員の対応で解決しない場合は応援を呼ぶか、責任者(助役など)に一段上の対応をしてもらう、あるいは警察を呼ぶしかない。

ここで重要になるのが、職場ひいては会社のバックアップだ。時に理不尽な旅客と面と向かって接する駅員にすべての責任を負わせてしまえば、駅員は大きなストレスを受け、離職にもつながりかねない。それは本人のみならず事業者にとっても大きな損失だ。

現場で対応する社員を守るためには、駅員が対応すべき範囲を設定し、それを越えた場合は対応をエスカレーションさせて上位の役職者に対応を委ねる。またそのルールに従って対応した社員は会社が全力で守るという方針を明確にする。これらはクレーム対応の基本である。

事業者は「言葉の暴力」に対し毅然とした対応を

しかし残念ながら、鉄道の現場ではこうした体制は十分に整備されていないのが実情だ。会社や責任者が事なかれ主義に陥り、現場の係員が負担の多くを背負っていることも珍しくない。そういう意味では、JR東日本が今回の事件について、安全を最優先した結果、口調が強くなってしまったが、行き過ぎた言葉があったことは謝罪するとしたことは、守るべき部分と行き過ぎた部分を明確に切り分けた、極めて妥当なコメントだったと評することができるだろう。

最後にひとつだけ問題提起をしたい。係員の人間としての尊厳を傷つける言動に対してどのように対処するかである。いわゆる「言葉の暴力」であるが、実際の暴力行為と異なり、対応をとりにくいのが実情だ。

言い返せば問題になり、かといって会社は対応してくれず、自分で抱え込むしかない。筆者の経験上、特に若い女性係員はそうした言葉の暴力の対象になりやすい傾向がある。こうした言動を許さないという姿勢を明確化し、毅然きぜんとした対応をとる方針を示す必要があるのではないか。駅員はサンドバッグではない。本人が殴り返すことはできないが、会社は本人に代わって戦わねばならないのである。

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