「乗客に激高する渋谷駅員」が動画で拡散

ある乗客がSNSに公開した動画が波紋を呼んでいる。動画には駅員が乗客に激高する様子が収められており、その「被害」を訴えるかのように拡散されたものだったからだ。ネット上だけでなくテレビでも盛んに取り上げられ、乗客による悪意ある誘導、切り取りなのか、駅員の対応に問題はあったのかなどの議論を呼ぶこととなった。

山手線の車両
写真=iStock.com/winhorse
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ことの発端は7月4日20時ごろ、JR渋谷駅の山手線ホームで、乗客が線路内にサイフを落としたというありふれた事案だった。乗客の申し出によれば、サイフは他の乗客に押されたことで落下し、中から1万円札4枚が飛び出て、風で飛んでいきそうな状況だったという。

乗客はホーム下を除き込んだり、線路に降りようとしたりしていたことから駅員が駆け寄ってきて制止。乗客は駅員にサイフを拾うよう要求したが、この時間帯の山手線は4分間隔で運行されているため、駅員はすぐには対応できないと回答。すると乗客は自分の手で電車を止めようと、非常停止ボタンを操作するという実力行使に出たのである。

乗客の行為は明らかに正当性を欠く

言うまでもなく、これは非常停止ボタンの目的外使用である。JR東日本は「なるほどQ&A Guide」で、非常停止ボタンの使い方について「ホーム上から転落しそうなお客さまや列車に接触しそうなお客さまを見かける等、危険と感じた場合はボタンを押して係員に知らせてください」と記している。

非常停止ボタンは2001年1月に新大久保駅で発生した、転落した乗客を救出しようとした2人が電車にはねられて亡くなるという痛ましい事故を受けて整備が進められたもので、主目的は乗客の安全確保であるが、それ以外の用途もある。

例えば、大きくて重いスーツケースなどが線路上に落下した場合、電車にはね飛ばされる危険があり、車輪に巻き込んでしまい復旧に時間を要するなど、被害が拡大するケースが考えられる。重量物でなくとも落下物の性質によっては非常停止ボタンを操作したほうがよいこともある。まさにケースバイケースだ。

鉄道事業者としては、操作が好ましい場面を例示することはあっても、具体的な線引きをすることはできないので、実際にどうだったかは別として、危険だと判断して非常停止ボタンを扱った乗客を責めたり、ましてや損害賠償を請求したりすることはない。

だが、今回のケースは目の前に駅員がおり、またサイフを拾うために列車を停止させるというのは明らかに正当性を欠く。この点からも、そもそも問題の根本には乗客の不適切な行為があったことは疑いようがない。