「それ以来、メドベージェフは独立した政治家としては隠遁したようなものだった」と、カーネギー国際平和財団でロシア・ユーラシアプログラムのディレクターを務めるユージーン・ルマーは語る。

ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイは17年、ロシアの政治家による幅広い腐敗を暴露する動画を発表した。プーチンが大統領に復帰すると入れ替わるように首相に就任していたメドベージェフもターゲットの1人だ。

すると、その豪勢な暮らしぶりを知った多くの市民が全国で怒りのデモを繰り広げた。10代の若者たちは、黄色いアヒルのおもちゃを手にデモに参加した。メドベージェフの広大な別荘に、ヨットハーバーやスキー場やヘリ発着場だけでなく、アヒル小屋があることにちなんだ抗議だ。

支持率が38%に落ち込むと、メドベージェフは20年に首相辞任を発表した。それでも政界から消えたわけではなく、新設されたロシア安全保障会議副議長に就任した。「メドベージェフは無職になってはいない」とガレオッティは言う。「だが何の仕事をしているのかは誰も知らない」

人気がないメドベージェフが政治家として生き延びてこられたのは、プーチンが「従順な歩兵」に義理堅い証拠だ。「プーチンは変化を好まない。物事をかき回されることを嫌がる。側近集団の顔触れが変わることも好まない」と、ガレオッティは指摘する。

コロナ禍が始まってから2年、プーチンはいまだに群衆に近づこうとしないし、政府高官とさえ距離を置きたがる。このため欧米のメディアでは、「プーチン健康悪化説」が盛り上がる一方だ。

もちろんロシア政界も噂には気付いている。メドベージェフの最近の行動は、長年自分を守ってくれたパトロンも、政治的・肉体的な死と無縁ではないという思いと関係していると、スタノバヤは語る。

「メドベージェフは『プーチン後のロシア』における、自分の居場所を確保するために戦っているのだ」

From Foreign Policy Magazine