ロシアの若き大統領がシリコンバレーを視察――。後にも先にも考えられないような光景が実現したのは2010年のことだ。
44歳のドミトリー・メドベージェフ大統領は、ロシアが資源依存型経済から脱却するためのアイデア(と投資)を求めて、グーグルやアップルなどの大手テクノロジー企業を訪問。ツイッターの共同創業者であるビズ・ストーンは、「ツイッターの歴史でも指折りの特別な日」と語った。
メドベージェフ自身もツイッターデビューを果たした。「ハロー、みなさん。私もツイッターを始めました。これが私6の初メッセージです」とロシア語で(打ち間違い入りで)ツイートした。
あれから12年。最近のメドベージェフのソーシャルメディア投稿には、欧米政府高官に対する口汚い批判や、アメリカを攻撃するとか、ウクライナを地図から消し去るといった好戦的な言葉が目立つ。
ウクライナ侵攻がロシア国内にもたらす混乱が日常生活に表れ始め、さらにウラジーミル・プーチン大統領の健康悪化がささやかれるなか、メドベージェフは自己防衛策を強化しているようだ。
「ロシアのエリートの間では不安が大きくなっている。プーチンに守られてきたエリートも例外ではない」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は語る。「この先どうなるのかという不安から、目立たないように隠れているエリートもいれば、声高に強硬な発言をするエリートもいる」
メドベージェフは昨年10月、ロシアの日刊紙コメルサントに反ユダヤ主義むき出しの寄稿をした。ロシアがウクライナ国境に兵力を集める少し前のことで、ユダヤ系であるウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチスと非難するなど、支離滅裂な陰謀論と罵詈雑言に満ちた寄稿だった。
かつては温厚に見えたメドベージェフの変節は、ロシアがヨーロッパにとって厄介な隣人から、存亡を脅かす存在に変貌したことと一致する。
突然ウクライナを猛批判
2月のウクライナ侵攻以来、ロシア政界はナショナリズム色が極めて濃くなり、異論を認めない風潮が強まった。メドベージェフの過激な主張も、強硬派の監視の目を意識して繰り出された可能性が高い。
「ロシア政治で起きている非常に興味深い変化の1つだ」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤ代表は語る。「ロシアは変わった。そしてメドベージェフは、自分が新しいロシアの一員であることを示す必要に駆られている」