いっそ「無双」を目指さないほうが良い
こうして見ていくとわかるように民放各局の特番は、そのほとんどが「MCと政治家の一騎打ち」というムードが濃く、それを視聴率やネット上の反響につなげようという狙いがうかがえる。
そのため、有働由美子、大越健介、太田光、池上彰、宮根誠司は、「自分の発言や姿勢が結果に直結する」というプレッシャーを背負っている。これは「池上無双」がフィーチャーされて以降、濃くなった傾向だけに、むしろ「無双」を目指さないほうが相対的に評価を受けるのではないか。
また、民放各局の視聴率が大差なく、NHKが圧勝に終わるのも、その内容が横並びに近いからだろう。放映権などの問題がない選挙には、スポーツにおけるジャパンコンソーシアムのような仕組みがなく、各局が特番を横並び放送する形を続けてきた。
そもそも日々の報道番組から横並びであり、なかでも国政選挙は“報道局の見せ場”である以上、選挙特番がそうなるのは当然とも言えるが、現在の視聴者はそんな各局の事情を許してくれない。
ではなぜテレビ局は選挙特番を放送するのか。その理由は放送法第4条の「政治的に公平であること」、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」という規定によるところが大きい。国民の共有財産である電波を使用した事業を行っている以上、その根底には「国政選挙は迅速かつ公平に報じなければいけない」という社会的責任があるのだ。
局員は横並び放送に否定的
日ごろから「テレビは同じような番組ばかり」というイメージを持たれ、ネットコンテンツへのシフトを助長する理由になっているだけに、選挙特番のような機会はネガティブな印象を加速させるリスクがは高い。
投票率が上がれば選挙特番への注目度も増し、特に若年層の意識が高まれば横並びでも問題ないのだが、現状ではその兆しが見えず、イメージの払拭はできないだろう。
出口調査や投開票日の票読みなどに多くの人材を動員し、多額の費用を要するほか、視聴率も通常の日曜を下回りがちなだけに、報道局以外のテレビマンたちには横並び放送に否定的な人が少なくない。特に近年は「あれほどお金がかかるのなら、急いで当落を出す必要はない」という声をテレビ業界内で聞くようになっている。
ネット上の声を見ても昨秋は、「『当選確実』ではなく『当選確定』になってからの報道でも視聴者は困らない」「次の日に落ち着いて見せてくれればいい」「各局で当日の夜と、翌日の朝に分けてくれればいいのに」などの声が目立っていた。
今回の選挙特番は、このような不満の声を覆せるほど内容の濃いものを見せられるのか。横並び放送を肯定するような差別化ができるのか。これらができれば選挙特番の意義は深まり、次回以降の投票率アップに貢献し、できなければ選挙特番はスルーされ、投票率ダウンの遠因にもなりかねない。