※本稿は、安藤優子『自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)の一部を再編集したものです。
安倍政権はジェンダー平等に目覚めたわけではない
安倍晋三が「女性が輝く社会」を高らかにかかげて政権の座に返り咲いたのは、2012年12月も押しつまった26日のこと。
きわめて保守的な政治信条で知られる安倍首相がなぜ女性政策を政権の「売り」にするのか、安倍はリベラルに舵をきったのか? それとも選挙対策か? などと様々な憶測を呼んだが、安倍首相は政権発足後の施政方針演説でも「みなさん、女性が輝く社会日本を、ともに創り上げていこうではありませんか」と呼びかけ、あらためて女性政策が政権の柱であることを強調してみせた。
しかし、安倍政権がジェンダー平等に目覚めたのではないことは、「女性が輝く」というきわめて抽象的な表現を単に「女性が働くことができる」という言葉に置き換えれば、すぐに合点がいく。「女性が輝く社会」のための政策パッケージは、安倍自身が明確に位置づけているように、成長戦略、すなわち経済政策なのである。
評価されるべきポイントはある
無論、安倍政権が成長戦略の柱のひとつに据えた「経済政策」としての女性政策をやみくもに否定するものではない。2015年8月に国会で成立した「女性活躍推進法」は、女性が働きやすい環境づくりについて、企業側が具体的に女性をどのくらい幹部に登用するかの数値目標や、実際の活躍状況についての報告義務を課したことは、それまで女性活躍に本気で取り組んでこなかった企業側の認識を一定程度変化させるに至った。
またこの法律には、「男女の人権が尊重され」との文言が挿入され、単なる経済政策としての「女性活用」のための法律ではなく、女性の人権も(男性とともに)尊重される労働環境づくりのための法律であることが明記されたことも、実効性はともかく、法整備という点からは評価される。つまり、多少なりとも人権の見地から、女性(と男性)が働く環境整備が行われるべきとの認識が盛り込まれたのである。このほかにも、女性が就労者の5割を占める非正規雇用に対しての賃金の引き上げの奨励や、幼児教育・保育の無償化は、主に女性を労働の現場に戻す一助になったことは、評価されよう。