女性を「イエ」に属する妻、母、娘として認識する
森喜朗発言は、あからさまな「女性蔑視」かどうかはさておき、自民党の政治指向における女性認識をきわめて端的に示したことは間違いない。なぜなら、「女性らしく」「わきまえる」べきとの認識は、本書がこれから明らかにしようとしている、女性を男性優位社会において「従属的」な存在として見なしていることに他ならないからだ。
「従属的」とは、女性を一個人として認識するのではなく、常に「家」―「イエ」に属する妻、母、娘として認識することである。「女性らしく」は、良妻、良母、良子女の枠組みからはみ出すことなく振る舞うことを意味している。このような自民党の政治指向を、本書では「イエ中心主義」と定義した。
「イエ中心主義」は造語であるが、本書の最大のテーマは、女性に対する認識が「イエ中心主義」の政治指向の形成過程で、どのように形作られ、また時の政治環境によって戦略的に再生産されてきたかを、戦後の自民党政治の保守再生の流れと共に見ていくことにある。同時に、「イエ中心主義」の政治指向が育んだ「女性認識」が、結果として女性議員の過少代表という現実を生んでいること、そしてそれは戦後から綿々と根を張って現在に至っていることもお分かりいただけると思っている。図らずも森発言は、「イエ中心主義」の政治指向が「現役」であることを示してくれた一例である。