地域ごとにある郷土防衛隊は、必ずしも政府の指揮下にはない

ロシアが侵攻を開始する1カ月前の1月24日から6月7日までの間に、G7やEU各国が表明した軍事・財政・人道分野の支援額を、ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」が集計した結果を、6月20日の読売新聞が報じています。

各国の支援総額は783億ユーロ(約11兆円)に上り、国別では米国が427億ユーロ(55%)、英国48億ユーロ(6%)、ドイツ33億ユーロ(4%)などと続いた。日本は6億ユーロ(0.7%)で7位だった。
米国は射程の長い榴弾砲や、高機動ロケット砲システム(HIMARS)など最新兵器の支援を次々と表明している。軍事物資購入に充てる資金援助を含めた軍事分野の支援額(240億ユーロ=約3兆4000億円)は、日本の今年度防衛予算(5兆4000億円)の半分を超える。

日本ではあまり議論されませんが、これだけ大量の最新兵器が送られることについて国際社会では、戦争を長引かせる以外の問題を懸念する声が出ています。ウクライナ軍による武器の管理に不安があるからです。渡した武器がその後どうなっているか、誰も把握できないのが現状です。

歩兵携行式多目的ミサイル「FGM-148 ジャベリン」
歩兵携行式多目的ミサイル「FGM-148 ジャベリン」(写真=United States Army/PD US Army/Wikimedia Commons

ウクライナでは、正規軍のほかに地域ごとの郷土防衛隊があります。マリウポリで有名になった「アゾフ連隊」もそのひとつですが、必ずしもキーウの指揮命令下にはありません。こういった組織に重火器を送れば、やがて各地域に軍閥が乱立する可能性があります。

2014年の紛争開始以来、30万個の武器が行方不明に

5月27日のAFP=時事は、こう報じました。

以前からウクライナの武器管理については疑義が呈されており、米軍の監査部門は2020年、ウクライナに供与された武器の監視体制を問題視していた。

米NGO、紛争市民センター(CIVIC)のアニー・シール氏は、「ウクライナに武器を送っている米国や他の国々は、市民を保護するために、どのようなリスク緩和や監視の措置を取っているのかに関して透明性を著しく欠いている」と批判する。

同団体は、武器を供与した後に追跡する必要性があると訴える。だが、武器管理の専門家は、紛争地で武器の行方を追跡するのはほぼ不可能との見解を示している。

かねてウクライナからの兵器や技術の流出は問題視されていました。ソ連時代、軍需都市だったウクライナは大量の兵器と技術を保有していました。米ソ冷戦後にウクライナが独立すると、外貨を得るために兵器や技術は紛争地も含めた世界各地に流出したという歴史があります。

2014年にロシアがクリミア半島を併合したことで、ウクライナ東部ドンバス地方で親ロシア派武装勢力と政府軍が衝突するようになると、ウクライナ国内で武器の略奪が始まります。スイス・ジュネーブの調査機関「スモール・アームズ・サーベイ」によると、「2014年の紛争開始後、両陣営を支援する団体や個人が、国有の武器・弾薬保管施設の一部を略奪しました。当局の推定によると、2015年までに戦場での押収やその他の転用により、30万個の小火器・軽兵器が行方不明となり、クリミアだけでも10万個が行方不明になった」といいます。

戦争が終結すれば、不要になった武器は地方の軍閥から闇市場へ流れ、国際的な犯罪組織やテロ組織の手に渡ってしまう可能性が排除できません。