地球以外に初めて液体が確認されたタイタン

土星最大の衛星タイタンは、太陽系の衛星の中では唯一、濃い大気を持っていることで知られる。その様子をはじめて詳細に観測し、表面に湖や海が存在している可能性を示したのは惑星探査機ボイジャーだ。

地球以外で、表面に液体が確認されている天体はなかった。それだけにボイジャーの観測は世界に衝撃を与えたが、タイタンの液体は水ではなく、メタンやエタンなどの炭化水素である。

表面温度はマイナス180℃の極低温であり、水が液体として存在するには冷たすぎるが、融点の低い炭化水素なら液体として存在できる。ただしボイジャーの観測では実際に液体の炭化水素が存在するかどうかまでは明らかにできなかった。

この問題に決着をつけたのが、1997年に打ち上げられた探査機カッシーニとカッシーニに搭載されていた着陸機ホイヘンスだ。カッシーニは2004年6月に土星軌道へ到達後、土星の環や衛星の観測を行い、12月にはホイヘンスを切り離した。ホイヘンスはタイタンの大気を観測しながら降下し、着陸後、機能停止するまでの4時間弱、探査データをカッシーニを経由して地球へ送信した。

サテライト通過土星
写真=iStock.com/3000ad
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惑星探査機カッシーニによる大発見

ホイヘンスが撮影したタイタンの表面には、砂漠のような場所に丸い石や氷の塊がたくさん見られた。研究者たちはこの画像から、かつてそこに液体が流れていたと考えている。石を転がし、その角を削る川の流れがなければ、丸い形状の石が存在することを説明しにくいからだ。ホイヘンスの観測は、液体によって作られたと見られる地形が広範囲に及んでいることも示していた。

ただし水のように流れる液体そのものを発見するには至らなかった。液体の存在を確認したのは、カッシーニだ。ホイヘンスを切り離した後も、カッシーニはタイタンに接近するたびに電波と赤外線による観測をつづけ、2006年7月、北極付近にレーダーを反射しないエリアを発見した。

それこそ液体メタンで満たされた湖の存在を決定づける証拠だった。タイタンに大気だけでなく、表面に安定的に液体が存在していることが確認されたのだ。

さらに山、砂漠、川があることも報告された。川を流れるのも液体のメタンだ。蒸発したメタンは再び雨となって表面に落ちる。地球と同じように大気が循環しているのだ。大気には、メタンの他、生命の材料となる有機物がたくさん含まれていることもわかった。

つまり、タイタンには液体の水こそ存在しないものの、生命が存在するために必要な物質がいくつもあったのだ。とはいえ、地球の常識に照らせば、水がないというのは最も重要なパーツが欠けていることになる。