NASAによる生命の定義
果たして水がなくても生命は存在できるのだろうか。1994年、NASAは次のような生命の定義を採用すると発表した。
「生命とは、ダーウィン進化を起こしうる自立した化学反応システムである」
ダーウィン進化とは、環境に適応する生物が生き残ることで起こる進化のことで、細胞などが自身のコピーを作り出す自己複製、遺伝子が変化することによる遺伝的変異なども含まれる。
NASAの定義で水の存在は前提とされていない。ある化学反応システムが自立しており、かつダーウィン進化を起こしていれば、それを生命と見なすというのだ。
2005年、NASAエイムズ研究所の宇宙生物学者クリス・マッケイさんたちは、地球上に存在する微生物のメタン生成菌を参考に、タイタン表面の液体メタン中にメタン生成生物が存在する可能性について論じている。
地球のメタン生成菌は、水素と二酸化炭素を食べて、メタンを生み出す。酸素がない環境を好み、沼地、海底堆積物の他、牛の胃や、わたしたちヒトの腸にもすみついている。
おならの成分の一つであるメタンは、メタン生成菌によるものだ。それではタイタンの液体メタンの中にすんでいるかもしれないメタン生成生物は何を食べているのか。マッケイさんたちは、水素とアセチレンを食べ、メタンを出しているのではないかと予想した。
それだけに2010年6月に発表された、カッシーニの観測に基づく二つの分析結果は、世界に衝撃を与えた。
一つは、タイタン大気の下層の方が、上層よりも水素濃度が低いこと、もう一つは、表面でアセチレン濃度が低いことを示していた。2005年にマッケイさんらが論文で示した、水素とアセチレンを消費する生物がいるとする仮説と矛盾しない結果だった。
タイタンに生物がいることを示す直接的な証拠はまだ得られていない。しかし、もし地球とまるで違った環境で生命が見つかれば、わたしたちの生物学の概念を根本から覆すはずだ。はたしてタイタンに生命体はいるのだろうか?
生命が存在する可能性が最も高い星
生命が存在する可能性がある衛星は他にもある。その名はエンケラドス。月の7分の1の、直径500キロメートルほどの小さな衛星だが、長らく注目されていなかった。
しかし近年、生命が存在する可能性が最も高い天体の一つとして、多くの研究者が期待を寄せている。土星には環のさらに外側に、1966年に発見された、Eリングと呼ばれる青白いリングがある。エンケラドスは、そのEリングの中をまわる衛星だ。
1980年代、ボイジャー2号は、エンケラドスを撮影し、表面がすべて氷で覆われていること、そしてクレーターがある場所と全くない場所にはっきり分かれることなどを明らかにした。エンケラドスでは、もともとあったクレーターを消してしまうような大きな地殻変動があったのだと考えられた。