エンケラドスには水がある
一方、エンケラドスは、ハビタブルゾーンから大きく離れている。それにもかかわらず、3条件を満たす場所がある、とポルコさんは言う。
まず、液体の水はどうか。ポルコさんは、エンケラドスの氷の下に膨大な水があるはずだという。そう確信したのは、噴出する氷の粒子の大きさからだった。
「分析した結果、その中には細かい氷の粒子が多く含まれていることがわかりました。これは『液体の水』が噴き出して水滴となり、凍結して細かい『氷の粒子』になったためだと考えています」
観測によれば、噴き出した氷の粒子の直径は、100分の1ミリメートル以下。もしも表面付近の氷がそのまま噴き上げたのなら、これほど細かい氷の粒になるのは難しく、液体の水が噴き出し、水滴となった後に凍ったからこそ、大量の氷の粒子ができたと考えられるのだという。
大量の水が生まれる仕組み
しかし、エンケラドスが回る土星は、太陽から14億キロメートルも離れている。これだけ離れていると、3つの条件の1つ、熱エネルギーはほとんど届かない。
実際、エンケラドスの表面温度はマイナス180℃しかない。いったい何の熱が存在するのか。
その鍵を握るのが、エンケラドスの外側を回る、土星の衛星ディオーネの動きだ。
エンケラドスは土星とディオーネに挟まれたまま、公転を続けている。エンケラドスの公転周期が33時間であるのに対し、ディオーネのそれはちょうど2倍の66時間。
その結果、66時間に一度、土星とエンケラドスとディオーネは直列に並ぶ。このとき、エンケラドスは2つの天体の重力に引っ張られ、その潮汐力によって、平たくひずむ。その後、元の球の形に戻っていく。
このくり返しにより、エンケラドスの内部で摩擦熱が発生する。氷はその摩擦熱で溶かされ、液体の水となる。さらに氷が割れて液体の水が上昇し、噴射する――。
「氷の下には『液体の水』があるでしょう。エンケラドスの噴射はこの下で生命が誕生しているかもしれないことを示しているのです」(ポルコさん)