氷の中に含まれていた物質が意味すること

2014年4月、エンケラドスの重力分布のデータが発表された。解析の結果、南極付近に、氷より重い液体の水があることがわかった。その量は琵琶湖の貯水量の1万倍にも達する。エンケラドスの水に含まれる物質の成分もわかってきた。

NHK「コズミックフロント」制作班、緑慎也『太陽系の謎を解く 惑星たちの新しい履歴書』(新潮選書)
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2010年にカッシーニが、噴出した氷を至近距離から観測したところ、氷に炭素、酸素、ナトリウムなどさまざまな物質が含まれていることがわかった。興味深いことに、その中に、宇宙空間にはほとんど存在しない物質、極めて小さなシリカの結晶であるナノシリカも検出された。

シリカは水晶の成分だ。地球上では、温泉にナノシリカが大量に存在する。温泉が濁って見えたり、青く見えたりするのは、ナノシリカが太陽光を散乱、反射するためだ。そんなナノシリカがなぜエンケラドスから検出されたのか?

この結果に注目した研究者が、東京大学の関根康人さんと海洋研究開発機構の渋谷岳造たかぞうさんだ。惑星の進化や深い海の研究に取り組んできた2人は、ナノシリカと聞いてすぐにあることを思いついたという。

「ナノシリカは、岩石と水が高温で触れ合って反応しないと生成されない物質です。その意味で、ついにカッシーニは、まさに熱水の環境の直接的な証拠を見つけたのかと非常に興奮しました」(関根さん)

関根さんたちが注目した背景には、日本人研究者による深海の熱水噴出口に関する研究の蓄積があった。高温高圧という過酷な環境に多様な生命が息づいていることを明らかにしてきた研究だ。

2人は、ナノシリカが深海の熱水のような環境でできたのではないかと考え、再現実験を行った。エンケラドスの主要な成分とされるかんらん石と輝石を圧力容器に入れ、高温で熱したのだ。

実験は3年に及んだ。

「もうナノシリカが十分に析出するぐらい非常に高い濃度に達したとき、これは来たなと思いましたね」(同)

探査機が捉えたのと同じナノシリカの微粒子を作り出すことに成功したのだ。さらにエンケラドスの氷の下には海が存在し、海底から100℃近い熱水が噴き出していることを実験から証明した。

「土星の周囲のように、潮汐エネルギーで局所的にエネルギーが増える場所では、生命の誕生の確率はかなり高くなるのではないかと思います」(同)

生命が生まれる条件がすべて揃った

エンケラドスは液体の水と熱エネルギーを持つことがわかった。残りは有機物の存在だ。実はこれもカッシーニによって確かめられた。

氷の間欠泉の内部を通過し、噴き出す部分にシアン化水素など、さまざまな有機物が大量にあることが観測されたのだ。これでエンケラドスは生命の3条件をすべて揃えた天体だったことになる。

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