親族からの催促を簡単にいなす司法書士
さて、このような努力のかいあり、叔父の意思は正式な公正証書遺言にすることができた。お願いした司法書士も成年後見人として認められ、義母が預かっていた叔父らの通帳や印鑑などは、全て司法書士の管理下に置かれた。
義母の性格上、ふたりの面倒を見ていることに変わりはないものの、財産管理という重圧がなくなっただけでも精神的負担は減ったようだ。あとは、親族たちがおとなしくしていてくれればいいのだが、2カ月後のある日、義母からの電話で、まだ火種がくすぶっていることがわかった。
「久子から電話があり、また誠意を見せろと言い出している」
またか……。筆者は久子の執念にうんざりしつつも、すでに叔父の財産管理は義母の手から離れているため、司法書士に相談すると、
「よくある話です。わかりました、私から親族の方に連絡しましょう」
と申し出てくれた。
慣れているのか、すぐに対応してくれたようで、その後久子から義母に催促の電話はかかってこなくなった。
後日、どのような話をしたのか司法書士に尋ねると「私の身分を明らかにしたうえで、法律に基づき、叔父さんの財産は私が管理しており、正当な理由なくそれを動かすことはできないので、何か必要なことがあるなら、全て私に言ってくださいと伝えました」とのことだった。
義母が管理していると思っていた叔父の財産が、法律の専門家である司法書士に委ねられたことで、久子も戦意喪失したようだった。
同様のことは信夫絡みでも起きていた。こちらは、以前、未遂に終わった実家の電化製品の回収について、義母に「もう使っていないだろうから、俺がもらってやる」と言ってきたという。こちらも司法書士が連絡を入れたことで引き下がった。留飲が下がる思いの筆者だった。
叔父夫婦の死後、財産は遺言書通り義母の元へ
その後、半年ほどして叔母、3年後に叔父が亡くなった。いずれも義母が葬儀を取り仕切った。親族たちにも連絡したが、誰も来ることはなかった。
司法書士から義母に戻された通帳には、この時点で合計約1000万円の預金が残されていた。遺言通りにそれを相続することは正当な権利である。
ちなみに、甥や姪には遺留分が認められないため、公正証書遺言の内容を覆すことはできない。それでも、念のため開示の連絡はしたが、誰も来ることはなかった。
こうして、義母の苦労は報われ、全額相続することができた。このお金は、義母や義父の老後・介護資金として役立ったことはいうまでもない。
介護や相続に関する手続きは、とかく複雑でややこしく、当事者たちが高齢の場合、自分たちで処理していくことは難しい。今回のケースのように、親族たちが感情論だけでもめていると、精神的にもつらいものがある。
だからこそ、その子供たちなど動ける人が正しい情報を集め、第三者・専門家の助けを上手に借りながら対処していくことが大切だ。そして、たとえ離れて暮らしていても、やろうと思えばかなり手助けができることも知っておくべきだろう。