世界各国でポケモンの名前分析が始まった

「濁音=口の中が広がる」という現象は、物理法則に基づく生理現象だ。「口が閉じて空気が流れ込めば、その口の中は膨張する」という現象は、この地球上で人間が濁音を発音する場合、必ず起こる。であるならば、「濁音=大きい」という連想は、どんな言語の話者でも成り立つはず。幸い、我々が執筆した最初のポケモンに関する論文は、すでに海外研究者の目を引いていて「別の言語での分析を一緒にやりたい」というオファーが殺到していた。

というわけで、複数の研究者チームが組織され、世界各国で、日本語以外の言語でのポケモンの名前の分析や、実験による研究が始まった。そう、知らぬ間に、私は家族タイプの研究チームを作り上げていた。しかも、それぞれが大人の研究者をリーダーとして持つ独立したチームでもあるから、私が全員分の研究費を捻出する必要もないし、学生に細かい仕事を押しつけなくてもよい。知らぬ間に大家族のリーダーとなってしまった私は、2018年に各リーダーを慶應に召喚……招待し、国際ポケモン言語学会を開催した。

2022年現在、日本語・英語・ポルトガル語・ロシア語の話者を対象にした実験が完了したが、「濁音=大きい=進化後」という連想が、これらの言語すべてで成り立つことが判明している。4つの言語の実験結果だけから普遍性を主張することは気が早いということは重々承知しているが、何かをつかみかけている手応えはある。これからも実験対象の言語を増やしていこう。ポケモン名研究は私の専売特許ではないので、「我こそは!」という読者の方は、どうぞ挑戦して頂ければ私も嬉しく思う。

口を開けるから「い」よりも「あ」のほうが大きく感じられる

音象徴研究の対象となる音は、濁音に限らない。例えば、「あ」と「い」というふたつの母音を比べると、前者の方が大きく感じられるという研究結果が多くある。この音象徴の効果もポケモンの文脈で確認されるのか実験してみた。

例えば、「パーパン」と「ピーピン」のような名前を提示して、どちらがより進化後の名前として相応しいか判断してもらうと、前述の4つの言語の話者すべてが「あ=大きい=進化後」と連想して「パーパン」を選ぶ傾向にある。この連想はどこからくるのだろうか。「あ」と「い」を繰り返して発音してみるとわかると思うが、「あ」の発音時には、口が大きく開く。つまり、「あ」の発音の仕方が「大きさ」という意味を模している。