社内の給与格差の拡大が働く意欲に大きな影響

一般的に給与の満足度が下がると、仕事に対するモチベーションも低下しやすい。

実は企業でも「脱年功賃金」のジョブ型人事制度を導入する企業や成果主義の強化を打ち出す企業が増えているが、社内の給与格差の拡大が働くモチベーションに影響を与える可能性もある。

本来、本人の能力や成果で給与が決まるのは当たり前と言われるが、日本の企業は同期入社であれば横並びの賃金を長らく支給してきた。唯一の基準は勤続年数や年齢だった。その背景にはチームワークなど集団主義的働き方の重視や、そもそも「成果とは何か」という厳密な定義や指標がなかったこともある。

そうやって染みついた同質性のメンタリティと衝突したのが1990年代後半から流行した「成果主義賃金」だった。2000年当初、成果主義を導入した大手自動車メーカーの人事担当者はこう言っていた。

「本社部門と総合職に導入したが、製造現場では猛反対された。その理由を聞くと『同僚と10円違うだけでも、なぜなんだ、と文句が出る。チームの和を乱すのでそんなものは入れないでくれと』と言われた。また、若くても早期に昇格できるようにすると、職長クラスの技能者が自分の地位が奪われるかもしれないと恐れて、後輩を指導しなくなるとも言われた」

徒弟制度の雰囲気を残し、職人肌気質の人が多い製造現場では毎年の査定で給与が増減する仕組みは職場の秩序を乱すものとして忌避されたのである。

給与格差の概念
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実は製造現場だけではなく、最近、似たような話を知人から聞いた。大手IT企業がAIなどに詳しい若手のデジタル人材を、現在の給与制度と別枠にして年収1000万円で募集した。しかし、それでも人材が集まらない。加えて既存の社員から反発を招くという予想外の事態も発生した。当然、自分たちより給与が上回ることになり、不満が噴出し、モチベーションが低下するなどの職場の雰囲気が悪くなったという。

日本の伝統的大企業は今でも年齢や勤続年数にこだわる意識が払拭ふっしょくされていないことを改めて感じた。