過剰な糖質制限ダイエットは低血糖を招く

ここからは、低糖質ダイエットや糖質制限ダイエットについて詳しく考えてみたいと思います。

糖質とは炭水化物のうち、エネルギー源になるデンプンやその構成要素でもあるブドウ糖などをいいます。糖質制限ダイエットのブームで、糖質という言葉の意味が広く知られるようになったものの、太る原因や健康に悪いというイメージが強まりすっかり悪者になってしまいました。

体形を気にして頭を抱える女性
写真=iStock.com/AntonioGuillem
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糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です。

糖質を控えるだけなら比較的簡単そうだし、おまけにカロリー制限はなく肉も満腹になるまで食べてもいい、ということで飛びつきたくなる気持ちもわかります。ただ、主要なエネルギー源である糖質を控えたら、どうやってエネルギーを得ることになるか、考える必要があります。

脂質やタンパク質は糖質とともにエネルギーになります。糖代謝はエネルギー代謝の中心にあり、脂質やタンパク質の代謝と密接に結びついており、糖質が不足してもエネルギーをつくるしくみがあります。それなら糖質制限しても問題はなさそうと思ってしまいます。ところが、困ったことに、脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます。

もし、低血糖になれば脳はその影響を強く受け、昏睡こんすい状態になる危険もあり、時には死を招きます。

意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクが高まる

低血糖を避けるために体内では、まずは肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を補います。グリコーゲンはデンプンと同様ブドウ糖がつながった分子なので、分解すればブドウ糖になります。とはいえ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます。

使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です。

血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。このような体を守るしくみを知ったうえで糖質制限ダイエットについて考えてみる必要があります。

糖質制限をすると脂肪細胞の分解ということは起こるので、やせることはかなり期待できます。ただ、やせたといってもぬか喜びになるかもしれません。極端な糖質制限を続ければ筋肉まで分解され、生体にとって危険な状態になるからです。

脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります。