腐敗度指数は180カ国中136位

問題は、戒厳令がいつまでも解除されなかったことです。プーチン政権が強権的な手法を用いるほどに、これに反発する人は増えていきますが、プーチンはその中でも目立った人たちを弾圧したり、場合によっては殺害してきました。

2021年のノーベル平和賞はリベラル紙『ノーヴァヤ・ガゼータ』の編集長が受賞しましたが、同紙の記者でプーチン批判の急先鋒だったアンナ・ポリトコフスカヤは2006年に何者かに射殺されるという壮絶な最期を遂げています。

しかも、強権による秩序の回復は政権の外側においてであって、プーチンに近い政・財界の有力者たちの間では途方もない蓄財やコネ人事が罷り通るようになっていきました。

2022年現在、ロシアの腐敗度指数は全180カ国中の136位であり、富の多くは一般庶民には回らずに一部の超富裕層に集中しているとされます。

こうしたいびつな統治のツケは、プーチンが権力を手放した瞬間に回ってくるでしょう。だから、最初は愛国的な動機で始まった「プーチンの戒厳令」は、次第にそれ自体が自己目的化し、いつまでも解除できなくなってしまったのです。要するに、プーチン大統領は自らの権力の虜になっているのではないでしょうか。

クレムリンのスパスカヤ
写真=iStock.com/Pavliha
※写真はイメージです

陰謀論に彩られた「市民社会」観

権力の虜になったプーチンは、ロシアの国内に対しても独特の視線で臨んでいます。

例えばロシア政府は毎年、世界の有識者を集めた「ヴァルダイ会議」というものを開催していますが、2020年の総括セッションでプーチンはこんな発言をしています。すなわち、市民社会というものはたしかに重要だが、「市民の声」なるものはどうやって作られるのか?

それは本当に民衆の声なのか、それとも誰かに囁かれた意見なのか?

外国の「善意の声」に過ぎないのではないか? ……などです。

ここには、市民社会に対するプーチンの深い不信が見て取れます。要するに、自発的な意志を持った市民という存在には非常に懐疑的であり、むしろ「大国」による認識操作の対象だと見ているのではないかということです。

さらに最近のプーチンは「第五列」なる言葉をよく使います。1930年代のスペイン内戦のときに生まれた言葉で、国内にありながら外国のために働く裏切り者、といった意味で使われます。

プーチンにいわせれば、ロシアの民主化団体とか、リベラルなジャーナリズムとか、場合によっては環境団体さえもが外国の意向を受けて活動する「第五列」に見えているようです。プーチン政権の統治手法に対して国民が反発すると、それはみな西側が操っているからだと見るわけです。

こうした世界観に基づいて、スターリン時代の人権弾圧を調査・記録する団体「メモリアル」を解散に追い込み、反プーチン運動の指導者アレクセイ・ナヴァリヌィを逮捕し、メディアやインターネット空間に対する統制を強めてきました。

戦争が始まってからは、政権の意向に沿わない報道を続けるテレビ局「ドーシチ(雨)」やラジオ局「エホー・モスクヴィ(モスクワのこだま)」を閉鎖し、TwitterやFacebookといった西側のSNSもブロックしています。YouTubeもそろそろ危ない……という話もあります。