プーチン大統領は「帝政ロシア」の幻影に取り憑かれているのかもしれない。ウクライナ侵攻のツケは、いずれプーチン氏、そしてプーチン大統領を支持するロシア国民の生活に跳ね返ってこよう。欧米による「経済制裁」は表現こそ穏当だが、実質的な「経済封鎖」に等しい。市場経済から切り離された金融・経済は、さしずめ「鎖国」を思わせる様相を呈しつつある。
「悪い冗談ではないのか」。3月下旬、市場関係者からこんな驚きの声が聞かれた方針がロシア中央銀行から発出された。ロシア中銀は3月25日、金を固定価格で購入すると発表したのだ。
3月28日付けで、ロシアの通貨、ルーブルを金にバウンド(結合)したという内容だ。レートは1グラムにつき5000ルーブルと決められた。同時に、ロシアのチタ州にあるクルチェフスコエ金鉱床の開発について、SUN GOLD Ltd、中国国営金集団公司、ロシア政府投資基金、極東・バイカル地域開発基金、ブラジルおよび南アフリカのパートナー5社と金採掘の協定を結んだ。
この一連の発表について、市場関係者は「ロシアは金本位制を復活させるようなものだ」と指摘した。世界の基軸通貨である米ドルに対する対抗措置というわけだ。プーチン氏は時計の針を戻そうとしているようだ。
過去の遺物「金本位制」で欧米に対抗?
1971年、米国のニクソン大統領は突然、金と米ドルの交換を停止すると発表した。いわゆる「ニクソンショック」だ。第二次世界大戦後に確立した米国中心の為替安定メカニズム「ブレトンウッズ体制」が崩壊した瞬間であり、金という実物資産と兌換が担保されていた米ドルは以降、ペーパーマネーと化した。世界の為替制度は変動相場制へと変貌していく契機となった一大事件だ。
その「ブレトンウッズ体制」崩壊から半世紀あまり、ウクライナ侵攻に伴う経済制裁から米ドルの調達が事実上、断たれたロシアは、いまや過去の遺物となった金本位制で欧米に立ち向かおうというのか。
ロシアはウクライナのNATO加盟問題が先鋭化しはじめた2019年に金地金の輸入を開始した。当時、日本国内でも金価格が高騰した。国内の販売価格は19年9月末に1グラム5700円台と40年ぶりの高値まで上昇。また、金に連動する上場投資信託(ETF)が保有する金現物の残高も9月末時点で2808トンと過去最高を記録した。