ストレスで病気になるメカニズムは、まだあまり分かっていない。だが、北海道大学の村上正晃教授が行った「多発性硬化症」の研究から、ストレスが病気を引き起こす新しいメカニズムが浮かび上がってきたという。その内容を聞いた――。

※本稿は、チーム・パスカル『いのちの科学の最前線 生きていることの不思議に挑む』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

実験マウス
写真=iStock.com/dra_schwartz
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ストレスが病気を引き起こすメカニズムはよく分かっていない

<お話を聞いた人>
村上正晃(むらかみ・まさあき)教授
北海道大学 遺伝子病制御研究所
1963年生まれ。1993年大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。北海道大学免疫科学研究所助手、コロラド大学客員准教授、大阪大学大学院医学系研究科助教授、同大学院生命機能研究科准教授を経て、2014年より教授。16年から20年まで北海道大学遺伝子病制御研究所所長、21年より量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所量子免疫学グループリーダー、自然科学研究機構生理学研究所教授、22年より同大学遺伝子病制御研究所所長を再び務める。

一昔前なら、「病は気から」ということわざは、「気合と根性で病気なんて吹き飛ばせ」という文脈で使われたかもしれない。だが、現代ではこの言葉を、病気にならないためには「気」、すなわちストレスの対処法や心のケアが大切であるという意味で受けとめる人のほうが多いだろう。大きなストレスは、私たちの体を物理的に傷つけ、病気を引き起こすことが広く知られ、経験則的な証拠も数多く挙がっているからだ。

ところが、現象としては多く知られていても、ストレスが病気を引き起こす分子メカニズムは、まだあまり分かっていない。

最もよく調べられているのが、全身をめぐるホルモンを主役とするメカニズムだ。大きなストレスがかかると、腎臓のすぐ上にある副腎という臓器からホルモンが分泌される。これが血液にのって全身を流れ、細胞にメッセージを送ることで、血圧や血糖や免疫機能などが調整される。本来は、ストレスから体を守る機能だが、長期的にストレスが続くと、体のあちこちにさまざまな機能障害を引き起こしてしまう。現代社会でのダラダラ続くストレスは、体も想定外なのだろう。

ただし、このような全身をめぐるホルモンの働きだけでは、ストレスと病気の関係のすべてを説明することはできない。

北海道大学遺伝子病制御研究所教授の村上正晃氏は、指定難病である「多発性硬化症」を研究する過程で、神経と免疫系が相互に制御し合っている新しい仕組みを発見した。そこから、ストレスが病気を引き起こす全く新しいメカニズムが浮かび上がってきた。