「弱いストレス」を与え続けられたマウスが急死
2017年の実験では、それ自体では健康に影響を与えない弱いストレスを与え続けることで、自己反応性免疫細胞を注射したほとんどのマウスに急死を引き起こした。
「ストレス刺激の場合、入口は脳の特定の血管に形成されて、『ストレスゲートウェイ』と名付けました。ここに運悪く血液中に自己反応性免疫細胞が存在した場合、この血管の周りに集まって微小な炎症を発生させ、そこに分布している今まで活性化していなかった神経回路を活性化します。それが最終的に、胃と心臓につながる迷走神経回路を強く活性化して、それぞれに支障をもたらします。最悪の場合、死に至ることもありえます」
強いストレスでマウスが病気になることはこれまでにも知られていたが、今回の研究で与えたのは通常では病気を引き起こさない弱いストレスだ。それでも、自己反応性免疫細胞が血液内に存在するマウスでは、胃や十二指腸の出血や、心筋が壊れたときに放出される因子が認められたと村上氏は言う。
「ぐっすり眠れない状態」を与え続けた
いったい、どのようなストレスを与えたのだろうか。
「一つは、マウスをじめじめしたところに置く実験です。マウスは濡れるのが嫌いなので、常に少し不快な状態でいることになります。もう一つは、特殊なケージで飼って、ぐっすり眠るのを妨害するというストレスです。マウスはぐっすり眠ると尾の力が抜けてだらりと下がってしまいますが、そうすると水に尾がついて、目が覚めてしまうのです」
我慢できないほどではない少し不快な場所に居続けたり、うとうとするけれどぐっすり眠れない状態を続けたりしたマウスが、血液中の免疫細胞の状態次第で急死に至る。この結果をそのまま人間に当てはめることはできないが、身に覚えのあるストレスなだけに、ぞっとする話である。生活環境の悪化や寝不足などの慢性的なストレスが、胃痛や下痢を引き起こし、心臓の機能不全など体の不調を誘発し、急死あるいは突然死を引き起こす……。リアルな「病は気から」がありありと思い浮かぶ。