身体から発せられるアラートには深い意味がある
ここで問題なのは、一つひとつの病原体に対する身体の中の免疫細胞の数が少なくまだまだ未熟であることだ。
「ある病原体に対する免疫細胞が、抗原提示細胞からの情報で『自分の出番だ』と認識すると、攻撃に向かうためにその数を増やし、成熟していきます。皮膚や粘膜などのバリア機能が働くのは、ある意味、免疫細胞の数を増やすまでの時間稼ぎでもあるのです」
病原体が身体に入ると、それを排除しようとして発熱や痛み、倦怠感など様々な症状が現れる。それらのほとんどは免疫反応であると考えられている。
発熱は免疫細胞が活性化するための副作用と考えて欲しい。
細菌やウイルスは、身体が高熱になると勢いが急激に落ちる。一方、免疫細胞は熱が上がるほど力を増す。あまりにも早い段階で解熱剤などを飲んでしまうと炎症が燻った状態で長引いたり、うまく記憶されず、同じ病気にまたかかったりしてしまうことがある。
「ワクチン接種で鎮痛薬を服用すると、免疫記憶ができないということが先日もニュースで取り上げられていました。やはり、身体から発せられるアラートは深い意味があることを理解しなくてはいけません」
また、免疫細胞が活性化する際には、糖と酸素を消費する。
風邪で体が痛い、倦怠感を感じたりするのは、筋肉が糖と酸素をよく使うからだ。倦怠感が出るのは、筋肉を使わないようにして免疫細胞に優先して糖と酸素を送っているのだ。頭痛も、脳が糖を大量に消費することと関係あるとされている。
人間の体は消化にとてもエネルギーを使う。食欲不振もエネルギーを胃腸の免疫細胞に行くようにするために起きている。そうやって、遮断をしながら体全体で免疫にエネルギーを回す。
「解熱や鎮痛のため薬を使うのは、それらの症状でどうしても眠れないとき。睡眠、つまり休むことは免疫にとって最も大事なことなのです」
仕事や学校に早く行かなければと安易に薬を服用するのは、正しい使い方とは言えない。
腸内環境を整えることは、免疫機能を保つためにも大切
新型コロナウイルスにおいても、免疫力を高めるという言葉をよく耳にする。この“免疫力”という言葉は、医療用語ではない。そして、定義が曖昧だ。
前述のように、免疫細胞が活性化するためには、糖や酸素、タンパク質、脂質といった基本的な栄養素の他、鉄分やビタミンなども必要である。
ただ特別に何かをとればいいということはない。偏食や極端なダイエットなどで栄養が足りていないのであれば別だが、大抵は普通の食事をしていれば問題ないと常世田はいう。
酸素については血管が関係している。血行が悪く、末梢の血管まで酸素が届かない状態があると、免疫細胞がいざという時に闘えない。
「冷え症の人であれば足や体を温めること、お肉をあまり食べない人ならば、タンパク質を別の方法でとることが、免疫機能を維持するために必要かもしれません。個人個人で違うので、何が足りていないかなど、自分の体の状態を深く知ることが大切です」
“免疫力”を上げるには発酵食品がいいと耳にすることがある。
発酵食品にはタンパク質を構成するアミノ酸が含まれている。また腸はもともと細菌が多く炎症の起きやすいところ。そのため腸内環境を整えることは、免疫機能を保つためにも大切だ。