すべては「不満」から始まる

ジョブズ思考の特徴の2つめは、「問題に気づく力がある」ことです。

ジョブズはわがままな性格だったと言われていますが、言い換えれば問題や不満に気づく力があったともいえる。実はそれが新商品を生み出す原動力になっているのです。

アップル製品はどれも画期的な大発明であるかのような印象がありますが、本当は一から発明したものは何もありません。携帯電話も、タッチパネルも、デジタル圧縮技術による携帯音楽プレーヤーも、すでに他社が開発していたものです。ジョブズはそれらを使っていて、嫌で嫌で仕方がなかったのでしょう。付属のペンを紛失したら終わり、というようなタッチパネルへの不満から、指で操作するiPadやiPhoneなど一連の商品が生まれました。携帯音楽プレーヤーのiPodは「1000曲以上入らなければ嫌だ」「ボタンは3回以上押したくない」というジョブズ自身の要望を満たした商品です。

そもそもマッキントッシュはキーボード入力をしなくてもマウスで操作できるという点で画期的なパソコンでしたし、分厚いマニュアルを読まなくても感覚的に操作できるようになっている。ジョブズは斬新なアイデアで勝負したわけではなく、不便や不満を解消することで新商品を開発してきたのです。

それにはジョブズが決して天才エンジニアではなかったことが大きく影響しています。自身も優秀な技術者だったビル・ゲイツとはそこが違います。ゲイツはどんなに使いにくい複雑な機械でも、いじっているうちに理解して使いこなしてしまう。しかしジョブズはそういうことはできないし、したくない。つまりジョブズの発想は、「技術的にできるかできないか」とか、「他社製品をちょっと改良しよう」というようなものではないのです。

ジョブズ思考に近づくには、「問題に気づく」ことが第一歩。そしてたとえちょっとでも不満のようなものがあったら、見て見ぬふりをしないこと。見て見ぬふりをした問題は、最終的には自分に跳ね返ってくることが多い。なぜ、そうなるんだろう、どうしたら改善できるだろうと考え、実行することです。