例えば、セルフサービスにもかかわらず、「空いたカップをお下げしてよろしいですか?」と、出て行けと言わんばかりの応対をされたり、椅子なども深く座れないばかりか、長時間座ると疲れてしまうような代物を設置したり。

そもそも、リラックスするために立ち寄ったにもかかわらず、逆に疲労や不快を覚えてしまうという不満を、日本の消費者は潜在的に抱いていた。

多少お金を払っても、コーヒーを飲みながらリラックスして長居できる空間が欲しい――そんなニーズを掘り起こすべく、従来のコーヒーショップ経営のセオリーを覆して、徹底的に消費者視点に立った業態を開発したのがスタバだった。

店に入った瞬間、歓迎の意を五感で訴求してくるのが心憎い。まずは、芳醇なコーヒーの香りでお客を出迎え、フレンドリーで笑顔あふれる接客ながら、押し付けがましくない、気持ちをやわらげるBGM、心地よいソファの座り心地といったように、本能的に「もっともっと、この店にいたい」と思わせるような「雰囲気づくり」にコストをかけている。それがリピート客を増やし、“わざわざスタバに足を運ぶ顧客層”を創出し、売り上げのベースをつくっているのだ。

市場が成熟化すると、おいしいコーヒーを飲みたい、次の仕事の合間に時間調整をしたい等、来店目的を満たすだけでは顧客満足度を高めることはできない。スタバでは空間演出の付加価値をつけたがゆえに、圧倒的な支持を集めたと言えるのではないだろうか。