「自分ではどうにもならない大問題」でも実はシンプル

私の助言は、いたって簡単でした。

「そんなに苦しいのなら、とりあえず離れてみればいいじゃないですか。実家から独立してアパートを借りたらどうですか?」

すると彼は、驚いた顔で言いました。

「そんなこと言ったって、母はすぐ部屋まで来ちゃいますよ!」

階段を降りる年配の女性
写真=iStock.com/banabana-san
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それならいったん母親を部屋に入れ、しばらくして帰せばいいのです。泊まらせなければ、自分の時間や空間は確保できます。

しかし、「そうは言っても……」と納得した様子はありません。

本人は「苦しい」と切実に訴えます。でもじつは、本気で母親から離れたいと思っていないのだと私は理解しました。

確かに、彼にとって母の存在はうっとうしいのかもしれません。しかし、母親が食事も身の回りの世話もすべてしてくれているのですから、多少の干渉さえ我慢すれば、ラクな暮らしができているはずです。「生活の便利さ」と「親の過干渉」のどちらを選ぶのか。問題の本質は、シンプルです。

でも当人には「自分ではどうにもならない大問題」に映っていて、苦しくて仕方ない。推測するに、彼には仕事や他の人間関係で悩みがあり、その鬱々うつうつとした思いを母親にぶつけていただけなのかもしれません。

感情と状況を切り分けて考える

人間関係の問題を考えるときに大事なのは、「つらい」「憎い」「嫌いだ」の話と、「今起きている出来事」とは、別ものだと理解することです。

まずその前提に立たないことには、話は始まりません。

しかし多くの人は、その2つを混同しています。だから、堂々巡りを繰り返してしまうのです。相手との関係を正確に把握することなく、自分ひとりの思い込みで動いても、うまくいくはずはありません。

「今起きている出来事がつらいから悩んでいるのに、2つを切り離して考えるなんてできない」と言う方もいます。

でも、「今の状況」と「こうあって欲しい状況」が違うのなら、問題を明らかに見なければなりません。そのために、感情と状況を切り分けるのです。

要するに、冷静になって「考える」わけです。たとえば「上司が嫌いで会社に行くのがつらい」というのは、性格的あるいは人間的に「合わない」のか、それとも仕事上で「うまくいかない」のか。前者なら、仕事上の必要以外に接触する時間を極力減らし、さらに相手を適当に褒めるかおだてるテクニックを身につけると、状況はかなり改善するはずです。

後者なら、相手を仕事に関わる「条件」として配慮しつつ、当面の課題に集中するのです。その場合、最終的な手柄を相手に譲る覚悟で臨むと、事態は好転しやすいと思います。