プーチンの新たなシナリオはこれだ

ロシアはウクライナの国土を分割し、朝鮮半島のような状態にすることを狙っています。そのために重要なのが、黒海沿岸です。激戦になっている南東部のマリウポリを陥落させ、クリミア半島の西のオデーサ(オデッサ)も手に入れれば、その西隣はロシアが実効支配している“沿ドニエストル共和国”。国際的には承認されていない、モルドバ国内の一地域です。

すると黒海沿岸は、自国の領土からドンバス地域、マリウポリ、クリミア半島、オデーサを経て、ロシアが地続きで支配できるようになります。首都のキーウを占領するよりも、ウクライナを海上から封鎖してしまうほうが、戦略的な意義は大きいのです。対外貿易がさらに閉ざされれば、ウクライナは完全に日干しになります。

2021年10月10日、オデーサ港の穀物ターミナルから、穀物を積んだ貨物船が出航する
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ロシアでは、5月9日が「対独戦勝記念日」です。国民の戦意を高揚させるために、戦争関連の記念日は重要です。「祖国防衛の日」が2月23日の祝日で、ウクライナへ攻め込んだのが翌24日だったことからも、そのことは明らかです。プーチン大統領は、5月9日までにいくつかのオプションを用意し、何らかの戦果を示した上で一方的に勝利宣言をするつもりだと思います。

バイデンの言葉がプーチンの感情をエスカレートさせる

アメリカのバイデン大統領は、3月26日に訪問先のポーランドで行った演説で、プーチン大統領について「この男をいつまでも権力の座にとどまらせてはいけない」と発言しました。ホワイトハウスの当局者はすぐさま「プーチン政権の転覆を意図したものではない」と釈明しました。

しかし当人は、発言を撤回しないと明言。「自分が感じる道徳上の怒りを表明した。個人的な感情について謝罪はしない」と強気を崩しませんでした。

口から出てしまった言葉の解釈は、受け止める側次第です。ロシア側は、予定の原稿になかった発言だから、本心が出たのだろうと受け止めました。経済制裁もウクライナへの軍事的な支援も、目的はロシアの体制転換なのだという認識を抱きました。

さらにバイデン大統領は4月4日、ロシア軍が撤退したキーウ近郊の町ブチャで、民間人とみられる多数の遺体が見つかったことを受けて、「プーチン大統領は戦争犯罪人だ」と罵り、「この男は残忍だ。ブチャで起きていることは常軌を逸している」と語りました(4月5日・日経)。

外交は言葉の芸術ですから、相手の感情をエスカレートさせる言葉を吐くのは最終段階です。それは、バイデン大統領が生き残るか、プーチン大統領が生き残るかを意味します。バイデン大統領の強気な発言は、ロシアを非妥協的にさせました。

ブチャでの虐殺を受けて、各国がロシア外交官の追放に踏み切ったことも、事態を先鋭化させます。ロシアはますます内側に閉ざされ、外交機能の麻痺に直結するからです。