「自分の仕事は無意味だ」と考える人が増えた理由

コメントの多くはホワイトカラーの専門職からのもので、自分が常日頃漠然と思っていたことをグレーバーが的確に言い当ててくれたと述べていました。たとえばオーストラリアのあるコーポレート・ロイヤー(企業弁護士)は、「私はこの世界になにひとつ貢献しておらず、すべての時間がとてつもなくみじめだ」と書いています。

頭を抱えているビジネスマン
写真=iStock.com/kuppa_rock
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2015年1月5日(多くのロンドンっ子が冬休みを終えて職場に向かう初日)、何者かがロンドンの地下鉄の広告を差し替える事件が起きました。その「ゲリラ広告」には、グレーバーのエッセイが抜き書きされていました。

「ものすごい数のひとたちが、内心では“こんなものなんの役にも立たない”と信じている仕事をするために、何日も費やしている」
「まるで何者かが、俺たちを働かせつづけるために無意味な仕事をわざわざつくりだしているみたいだ」
「この状況が生み出す道徳的・精神的なダメージははかりしれない。それは俺たちの魂に刻まれた傷だ。だがそのことを、誰も言葉にしようとはしない」
「内心では自分の仕事が世の中に存在すべきではないと思っているときに、どうやって労働の尊厳について語りはじめることができるだろう」

この騒動を受けて調査会社が「あなたの仕事は世の中になんらかの貢献をしていますか?」と訊いたところ、37%が「ノー」と答えました。

こうしてグレーバーは、なぜこれほど世の中に無意味な仕事が多いのか考察していくのですが、ここではすこし視点を変えて、マカフィーとブリニョルフソンの論理からこの現象を考えてみましょう。

管理職は「市場の潤滑油」のような存在

プラットフォームの経済学』(日経BP社)では、知識社会の高度化とテクノロジーの進歩によって高スキル労働者(クリエイティブクラス)がフリーエージェント化する一方で、プラットフォーマーのようなグローバル企業が拡大し、そこで多数の「管理職」が働くようになると予想しています。

クリエイティブクラスとはその名のとおり、なにかを創造(クリエイト)するひとたちで、その典型がシリコンバレーで「世界を変えるイノベーション」を目指す若者たちです。それに対して会社の「管理職」は、彼ら/彼女たちの創造を手助けし、創造物の権利関係を定め、流通や配信、利用を管理し、収益を回収して分配する仕事をしています。

「管理職」は市場の潤滑油であり、その存在がなければどのような創造行為もたちまち行き詰まり、空中分解してしまうでしょう。