「日本人じゃない」だけで待遇に差をつける日本企業

日本の雇用問題は、正社員と非正規の待遇格差や、女性管理職の少なさといったことに留まりません。より深刻なのは、あらゆるところに「身分」が出てくることです。

親会社と子会社の待遇格差も典型的な身分差別です。親会社から出向してきた社員と子会社のプロパー社員では、同じ仕事をしているにもかかわらず給料に差があるのを日本のサラリーマンは当然だと思っていますが、こんなことは海外の会社では許されません。

日本企業が海外進出するときに、本社採用と海外支社の現地採用を分けますが、これは国籍差別以外のなにものでもありません。現地採用の社員から「同じ仕事をしているのに、なぜ私は給料が安いんですか?」と訊かれたときに、「お前が日本人じゃないからだ」と答えている会社はいまでもたくさんあるでしょう。あまりにも身分社会にどっぷりかってしまったために、常識すらなくなってしまったのです。

日本企業の人事制度が国籍差別に基づいているというのはアジア諸国で広く知られていますが、さほど大きな問題になっているようには見えません。これには大きく2つ理由があって、ひとつは「それでも地元企業よりはマシ」というもので、もうひとつは「数年しかいないのだからどうでもいい」です。

いまのところアジアでは日本企業は地元企業より高い給料を払うし、オン・ザ・ジョブ・トレーニングも充実しています。それでも上には日本人社員がいて、彼らの多くは現地語はもちろん英語すら話せません。そんな上司のために真面目に働くのはバカバカしいだけなので、優秀な現地社員は3、4年働いて仕事を覚えると、さっさと(自分を平等に扱ってくれる)グローバル企業に転職していきます。

彼ら/彼女たちにとって、日本企業はキャリアビルディングの最初のステップでしかないのです。

世界に名だたる日本企業が国籍差別をやめられない理由

アジアで成功している日本企業は、製造業や小売業など労働集約型の産業ばかりです。金融やITなど知識集約型の産業では優秀な人材はどんどん引き抜かれていくので、新人を採用しては一から社内教育する「シジフォスの神話」みたいなことを繰り返しています。

これはアジア圏の人材派遣業者のあいだでは何十年も前から常識になっていて、海外支社を担当する経営幹部も(まともなひとなら)理解していますが、現地採用と本社採用を平等に扱おうとすると、世界中の従業員を「年功序列・終身雇用」にしなければならなくなるのでどうしようもありません。

こうして世界に名だたる日本の大手企業が、国際社会からいつ「差別じゃないか」と批判されるのではとドキドキしながら、いまも国籍差別をつづけているのです。