これはとりもなおさずミンスク合意が実施されていればできていたことで、国土にあれだけの破壊を被ることは避けられていたはずだ。

ここまで来たらウクライナだけでなくロシアでもプーチンをどうやって止めるのか、という一点に絞られてきている。23年にわたり独裁者として君臨してきた指導者が、結局相談相手も、正直なアドバイスをしてくれる人もいなくなる悲哀、と言ってもいい。これはもちろん中国の習近平が陥る可能性のある土壺で、その場合には日本も悲劇に巻き込まれる。

今回のロシアによるウクライナ侵攻では、いかに指導者の頭に潜り込んで考えることが重要か、どの段階でどうすれば最悪の悲劇は防げたか、を考える格好の材料と思う。

日本も防衛のために核共有を認めるべきか?

日本国内では、ロシアの侵攻から3日後、安倍晋三元首相がテレビ番組で、日米共同で核兵器を運用する「核シェアリング」について議論すべきだ、と発言して物議をかもした。

安倍元首相が非核三原則を見直したいのは、一種のトラウマからだろう。「モリカケ桜」(森友学園・加計学園問題や「桜を見る会」問題)より大きなトラウマかもしれない。岸家、佐藤家、安倍家に受け継がれる“ファミリー・トラウマ”といってよい。よく知られるように、安倍元首相は母方の祖父が岸信介、岸の実弟が佐藤栄作という総理大臣を生んだファミリーの一員だ。

佐藤栄作は首相だった1967年に国会で「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を表明し、72年の沖縄返還では米軍の核兵器を沖縄から“撤去”させた。この“核抜き返還”などが評価され、74年にノーベル平和賞を受賞している。

ところが、09年に民主党政権が誕生すると、佐藤政権の頃から、核兵器を積んだ米軍艦の寄港を許していたという“核密約”の存在が明らかになった。また、在日米国大使だったエドウィン・ライシャワー氏は「核を積んで寄港していた」と証言している。核の持ち込みは“公然の秘密”だったわけだ。

大叔父の佐藤栄作は大嘘つきだった――これが安倍元首相のファミリー・トラウマだ。もし国会で「核共有」が認められたら、半世紀前に大叔父がついた嘘はかき消される。愚にもつかない安倍一族の過ちを後始末する一環なのだ。国民はそんなトラウマに付き合ってはいられない。

(構成=伊田欣司 写真=時事通信フォト)
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