ウクライナ危機でいちばん割を食うのはアジア系か
もう一つ衝撃的だったのは、今回の一件でいちばん割を食う恐れがあるのは、アジア系民族に含まれるパレスチナ人やゴラン高原の人たちだという主張だ。
イスラエルは、ウクライナのユダヤ人難民を全面的に受け入れると表明している。最大100万人規模の難民がイスラエルの移民となることも想定される。このとき、彼らには土地が用意され、農業で十分食べていけるように遇されるという。
中田氏によれば、その土地の候補の筆頭に挙げられているのは、ゴラン高原やパレスチナだ。平和に農業をやって暮らしているパレスチナの丸腰の民に銃をつきつけ、その土地が取り上げられ、そこにウクライナの人たちが入植する……という構図だ。
ウクライナの人たちはかわいそうだが、パレスチナの人の悲劇が報じられないのなら、それは私には人種差別にしか見えない。
ロシア制裁の最先端にいるアメリカにしても、必ずしも、ロシア=悪、ウクライナ=正義という図式にはなっていないようだ。
ジョンズ・ホプキンスの大学院を出て、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のスタッフだった医師の木村盛世氏(元厚生労働省医系技官)はコロナ問題でも自粛一辺倒の政策に疑問を呈しているが、ウクライナ問題でも重要な論文を私に紹介してくださった。
シカゴ大学のJohn Mearsheimer教授のものだが、以下のような主張をしている。
・アメリカを中心とする西側諸国がNATOやEUや民主主義を東方に拡大しようとしたことがロシアとの対立関係の原因。特に2008年にグルジアとウクライナのNATOへの加盟を認める方向が示されたことが問題。
・アメリカならびにどの同盟国は、グルジアとウクライナを中立的な緩衝国として位置づけ、これらの地域にNATOを拡大しないようにすべき。西側諸国はウクライナを経済的に救済する計画案を示すべき。この案はロシアが歓迎するようなものである必要がある。
これら西側諸国にも責任の一端があるといった意見に完全に賛同するわけではない。しかし、少しでも早い停戦はウクライナの人たちの命を救う上、世界経済へのダメージを少しでも小さくできるのだから、さまざまな角度からの自由な討議は必要だろう。
私自身は、今、テレビで論じられる情勢の判断や情報もかなり偏っていることを疑っている。コメンテーターをみても、もともとプーチンに批判的でプーチン批判の著書のある人たちのオンパレードだ。こういう人たちにロシア政府サイドの情報が届くとは思えない。
かつて、北朝鮮通を称する北朝鮮批判ばかりしていた評論家たちが誰一人として、金正恩が後継になることを予想できなかった(候補の1人として名を挙げる人さえいなかった)ことでもわかることだ。
作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏はプレジデントオンラインで「プーチン大統領の目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」と題した記事を発表した(3月3日配信)。ロシア=悪との偏向思考をするコメンテーターや書き手が多い中で、この佐藤氏の論考はとても説得力のあるものに感じられた。きっと今なおロシアから有力な情報が入るからこそ書けたのではないか。
社会心理学の立場から考えると、自分が正義の味方で、許せない敵がいると考えているときは、集団的浅慮という判断に陥りやすいとされる。
人間というのは、自分が正義と思うと残酷なことにも痛みを感じられなくなる。あのナチスですら、自分たちが正義と思っていたのだ。
北朝鮮の飢えた子どもの映像をみても、悪い国の人間だから当然だと感じたり、ウクライナ兵にロシアの若い兵士が殺されても同情の心が起こらなかったりしたら、それはちょっと危険な状態だと私は思う。
一般大衆が偏った判断をしても、外交に影響はないように思うかもしれないが、民主主義国では民意は無視できない。少なくとも、ふだんの人間関係では、自分が「正義の味方症候群」に陥っていないかという自省をウクライナ情勢を機に身に付けたいものだ。