NHKの出演者からひしひしと伝わる同調圧力

つらい……。

観始めて1時間も経たないうちに私はそう感じた。これまで断片的にニュースなどを観ることはあったが、こうして真剣に凝視することはなかった。初めてNHKと向き合っているようで、向き合っていると何やら言い知れぬ圧迫感を覚える。

この感覚は何なのかと考えながら観ているうちに、出演者たちが「みんないい人」だということに気がついた。それぞれが「いい人」というのではなく、「みんないい人」。「いい人」が集まって「みんないい人」ではなく、「みんないい人」だから「いい人」でなければいけないという同調圧力が画面からひしひしと伝わってくるのだ。

ニュースのキャスターは与えられた原稿を丁寧に読む「いい人」で、ゲストやVTRの素材に対しても「へぇ一」「ほう」「ステキです」などとこまめに反応する。スタッフたちとも「いい人」同士でねぎらい合っているようで、「相互扶助の精神」(「番組基準」)を体現しているのだ。

ドラマの登場人物もお笑い芸人も「みんないい人」

特に驚かされたのは朝8時から始まる連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』に続く『あさイチ』という番組。いきなり同局制作の『カムカムエヴリバディ』を褒めることからスタートするのだ。その日のゲストはこれまた同局制作の大河ドラマ『青天を』の脚本を担当している大森美香さん。開始早々、彼女は同番組の司会をつとめる博多華丸さんが西郷隆盛役に「いい」と思って大河ドラマに起用したと打ち明けた。大森さんは華丸さんが「いい」と褒め、華丸さんたちも大森さんの脚本が「いい」と讃える。

番組には彼女の夫や娘も登場し、彼女が仕事も家事も子育ても両立している「いい母親」であることが明らかにされ、出演者全員から称賛を浴びる。かつて同じドラマで仕事していたという俳優も彼女のことを「上の人には厳しく、下の人には優しい」と証言した。権力にのまれず、庶民感覚を忘れないそうで、まるで国家権力からの自主自律をテーゼにしているNHKそのものではないか。みんなに「いい人」と讃えられる大森さんは、みんなを「いい人」にする。

連続テレビ小説や大河ドラマの登場人物たちも「みんないい人」。「いい人」が逆境にも負けずに頑張り、それを「いい人」たちが支える。「NHK歳末たすけあい」のPR映像でもお笑い芸人の阿佐ヶ谷姉妹が視聴者にこう語りかけていた。

時には家族のように、時には友のように、
自分を支えてくれる人がいること、
そんな存在がいるだけで、
私たちは、笑顔で毎日を過ごせています。

彼女たちも「いい人」で、「いい人」が「あなたはいい人ですか?」と問いかけているようなのだ。