いい人ではない行為にはきちんと理由がある

その日に放送されていた各種番組も「みんないい人」だった。東京の小金井市の井戸(水汲み場)に集まる人々を取材した『ドキュメント72時間』では家族のために水を汲みに来る人々が紹介され、中には取材スタッフを労ってスープをつくって運んでくれる人まで登場した。『未来スイッチ』という番組では脚が不自由な曾祖母のために「杖に変形するシルバーカー(手押し車)」を発明した中学3年生がとりあげられ、福祉用具メーカーの取締役が「応援します!」と絶賛した。

逆転人生』という番組では口蹄疫こうていえきの被害から立ち直った畜産農家が紹介された。出演者たちは過剰なまでに「どん底からの大逆転劇!」「大、大、大逆転!」「素晴らしい!」などと「逆転」という言葉をなぞり合い、農家の方も逆転劇に合わせて生活設計しているようだった。『ロコだけが知っている』でも地域に貢献する人々が次々と紹介され、最後にゲストの細川たかしさんがこう絶叫した。

「いい人ばっかりだ」

NHKはまさにいい人づくめ。夜10時から放送されていたドラマ『群青領域』などではそうでないような行為をする人も登場するが、見るからに本当は「いい人」であり、そうでないようなことをする理由がちゃんと用意されているのである。

笑顔のプレートを持つ人たち
写真=iStock.com/SDI Productions
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50代男性が欠かさずNHKのドラマを観るワケ

「毎日、欠かさず観てますよ」

意気揚々と語ったのは藤堂さん(50代男性/仮名)だ。彼は十数年来、連続テレビ小説のみならず、大河ドラマも欠かさず観ているという。

——面白いんですか?

単刀直入にたずねると、彼は「う~ん」とうなった。

「面白いものもありますね」

——面白くないものもあるんですか?

「あります」

——面白くなくても観るんですか?

「観ますね」

即答する藤堂さん。

——なぜ、なんでしょうか?

「面白くなるかも、と思って観るんです」

今後に期待しながら観るということか。いずれにしても面白いから観るのではなく、欠かさず観ることが前提になっている。ちなみに彼は会社も無遅刻無欠勤らしい。

「毎日15分というのがちょうどいいんです」

藤堂さんが続けた。連続テレビ小説は15分の番組。この長さのドラマは「他にはない」とのことである。