NHKは受信料を財源とする公共放送だ。ノンフィクション作家の髙橋秀実さんは「NHKは『豊かで、かつ、良い放送番組の放送を行うこと』が法律で規定されている。だから、朝から晩までいい人しか出てこない。意識してNHKと向き合ってみると、何やら言い知れぬ圧迫感を覚える」という――。

※本稿は、髙橋秀実『道徳教室 いい人じゃなきゃダメですか』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

日本人に規則性をもたらす「道徳の宣伝機関」

早朝5時、いきなり男女が声を揃えて挨拶する。

「おはようございます!」

まどろんでいた私はびっくりして目を覚ます。「おはようございます」とささやくのではなく、勢いをつけて「おはようございます!」。朝から元気いっぱいの様相で、私も「早くしなさい!」と急かされるようなのである。

NHKのニュース番組『おはよう日本』。彼らはまず「○月○日、○時になりました」などと日付と時刻を伝える。まるで日本の時間軸を統率するかのようで、これが毎朝5時、6時、7時に繰り返される。ニュース番組なので新しい情報が伝えられそうなのだが、朝の5時からずっと見ていると、同じニュースが反復されており、内容より規則性が印象に残る。何かが起きているというより、道路交通情報の決まり文句のように今日も「おおむね通常通り」と言いたげなのだ。

遅まきながら気づいたことだが、NHK(日本放送協会)こそ日本の「道徳」ではないだろうか。日本人に規則性をもたらすという点でも道徳の宣伝機関といえるし、NHKはその存在自体が道徳的である。

ミニチュアのテレビに手をかざす人
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受信料に支えられる国営放送といってよさそうだが…

1950年(昭和25年)に放送法に基づいて設立された特殊法人で、その使命は「健全な民主主義の発達」や「公共の福祉」と規定されている。財源は広告収入ではなく受信機を備えた世帯から徴収される受信料(年間6714億円/令和3年度)でまかなわれており、公平な負担で公正な番組づくり。法律に基づいて受信料を徴収し、国会で経営委員会の委員や予算が承認されるので、国営放送といってよさそうなのだが、NHKは「政府の仕事を代行しているわけではありません」(NHKのHPより、以下同)と念を押す。

政府や「特定の利益や視聴率に左右されず、まさに自主的、自律的にニュース・番組を制作し、編成することができます」とのことで、NHKは「公平」「公正」「自主」「自律」の事業体。その「番組基準」を眺めてみると、「世界平和の理想の実現に寄与」したり「人類の幸福に貢献する」と宣言している。国民に対しては「人格の向上」を図って「合理的精神を養う」。「生活を安らかにする」ことにつとめて「相互扶助の精神を高める」。

さらには「家庭を明るく」「家庭生活を尊重する」そうで、「地域の多様性を尊重」「地域文化の創造」「わが国の過去のすぐれた文化の保存」「豊かな情操」「健全な精神」……。まるで『学習指導要領』(文部科学省)にあった「道徳」の徳目が列挙されているようで、NHKとはすなわち道徳放送だったのだ。

見える道徳。視聴できる道徳というべきか。NHKを流せば茶の間も道徳教室に早変わりするわけで、私は早朝5時からどっぷりNHKに浸かってみることにしたのである。