眠気をやり過ごすために無駄なエネルギーを割く
以前、こんな患者さんがいました。「ある睡眠の本を読んだら『睡眠時間は3時間で足りる』と書いてあったので、1日24時間を有効利用するためにも睡眠は3時間にしていた」というのです。
しかし、睡眠記録をつけて生活スタイルを一緒に詳しく振り返ってみると、昼間の眠気がかなり強く、仮眠を取るために仕事を抜けてトイレに行ったり、空いている会議室を探したりするだけではなく、立ち上がって歩くことで眠気を取り除く努力をするなどしていたことがわかってきました。
眠気をやり過ごす努力の積み重ねのために、無駄なエネルギーを割いていたのです。
まずは、この事実を認識していただいたうえで、患者さんと相談し、いきなりそれまでの生活習慣を変えて毎日6時間睡眠にするのは難しいので、夜の予定のない日だけ6時間睡眠にすることにしました。
そして1カ月後に面談したところ、「日中の眠気の煩わしさが減ったことで、思っていたよりずっと楽になった!」と報告してくれました。
特に、「日中のパフォーマンスが落ちてきているな」と感じるようなときは、意識的に6時間から7時間くらいの睡眠時間を確保するようにしてください。
「どこでもすぐ寝てしまうくらいに休息が足りていない」
医師として、これまでいろいろな人の話を聞いてきましたが、問題は、このパフォーマンスの低下を自覚することが案外難しい点です。
慢性的な不眠になると、眠気自体が一定以上には強くならないことがある研究でわかっています。つまり、強い眠気を感じることがないため、自分のパフォーマンスの低下にも気づくことができないのです。
また、どこでも眠れることを「体力も精神力も充実しているから」だと思っている人がたくさんいます。しかし、これは見方を変えると、「どこでもすぐ寝てしまうくらいに休息が足りていない」と捉えることもできます。
わたし自身の話であれば、通常勤務の他、月に7~8回の当直をこなしていた時代は、通勤電車で座った途端、すぐに意識がなくなるように“寝落ち”していました。
そのために、どこでも口を開けて寝てしまってもかまわないようにマスクをしていたのですが、「これで十分に仕事がまわっている」と錯覚していました。
でもいま振り返ると、当時のわたしはいつもイライラしていました。自動改札で前の人が手間取ったり、さらには歩いていて目の前の人が急に立ち止まったりするなど予想外の動きをして自分のペースを乱されると、頭が噴火するくらいに強いストレスを感じたものでした。
あきらかなパフォーマンスの低下を感じていなくても、午前や昼食後に強い眠気を感じる、朝にぼんやりする時間が長い、会議で寝てしまう。
または、気づいたら何度も同じことをしていて時間だけが経っていた、不機嫌なことが多くなった。イライラする、些細なことで不安になったり悲しくなったりする……。
こうした出来事が起きているなら、「パフォーマンス低下=睡眠不足」という体からの警告だと考えてください。
なかでも「午前や昼食後の眠気」が、自分に最適な睡眠時間を見つけるための大きな鍵となります。数日間、睡眠時間を少しずつ変えながら「午前や昼食後の眠気」をモニターし眠気を感じなくなれば、それこそが自分に最適な睡眠時間です。
どんなに多忙な人でも、年に数日は生活パターンに融通がききやすい日があると思いますので、そのタイミングで試してみてください。できれば2~3日連続で試せると、眠気の感じ方が摑みやすくなります。