今、アメリカで日本や韓国のブランドを押し退けて液晶テレビのシェアナンバーワンになったのが、「VIZIO」というノンブランドのテレビ。実はこのテレビをつくっているのは、台湾最大のEMS(電子機器の受注生産)メーカーである鴻海精密工業だ。同社は世界中の大手電機メーカーからOEM生産(相手先ブランドによる製造)を請け負って、たとえばゲーム機ならソニーのプレイステーションから任天堂のDSにWii、マイクロソフトのXboxまで一手につくっている。デルやHPのパソコンもiPodやiPhoneも全部、鴻海製だ。

台湾にはこうしたOEMメーカーや、さらには設計から製造まで手掛ける巨大なODMメーカーが20ほどある。そのチャンピオンにしてチャイワンの象徴的な企業が鴻海なのだ。中国のみならず、ベトナムやインドにも積極的に進出、従業員数は60万人を数える。

50年の資本主義の歴史を持ち、日本に追いつけ追い越せで長年日本の技術や経営ノウハウを学んできた台湾。巨大な市場と資金力と労働力を抱えた中国。この2つが結びついたチャイワンという概念は強力だ。台湾人は中国語はネイティブだし、英語も上手い。日本語もできる。世界のマーケットに通じているし、日本の機械や部品業界も知り尽くしている。中国人の使い方も熟知。それがチャイワンの強みであり、第三幕に突入したデジタル時代の覇者は台湾になる、と私は見る。

実際、韓国ではチャイワンに対する危機感が非常に強い。韓国でこれらに匹敵する企業はサムスンとLGの2社だけだが、台湾にはBIG20だけではなくHTCやASUSのように予備軍から彗星のように現れてくるところが後を絶たないからだ。一番儲かりにくかった製造部門に特化して規模の経済で利益を出し、その利益で次第に設計やR&Dまで押さえるようになった。また下流の販売、ブランドなども時価総額を使ってM&Aなどで手に入れ始めている。

こうしたデジタル化の第三幕で台湾勢に枕を並べてやられていることに日本では危機感のカケラすら感じられない。この期に及んでも日本のメーカーは成功体験から脱することができず、自社で開発した部品にこだわり、研究開発から設計、製造、マーケティング、ブランディング、アフターサービスに至るまでワンセットでやろうとする。そして利益が出なくなった昨今は、カンナをかけるようにすべての部門を薄く削っている。これでは競争力が出ないし、体力を消耗するだけである。

デジタル時代はどんなに高度な技術製品も簡単にコピーできるから差別化が長続きしない。お家芸だったワンセット主義は通用せず、日本が営々と築いてきた「ブランド」も役に立たない。デジタル化の本質を見誤ったため、栄華を誇った“デジタル先進国”が“デジタル敗戦国”に凋落した――。これが今の日本の現実なのだ。

(小川 剛=構成 AP/AFLO=写真)