勝負師としての心構え

鈴木は2020年のびわ湖毎日マラソンで終盤に大きく失速。2時間12分44秒の7位に沈んだことで、自分の身体を見つめ直した。「マラソンで勝負するには何かを変えないといけない」と考えて、ウエートトレーニングを取り入れるようになった。

その結果、ナイキ厚底シューズの「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」の威力をひき出すような走りが可能になった。

「アルファフライはうまくキックできると、すごく反発をもらえるので、コントロールするのが大事になってきます。その分、状態が悪いときは逆に難しいシューズでもあるかなと思うので、ウエートや体幹トレーニングなどをして筋力アップを図ってきました。厚底のアルファフライだけでは鍛える部位が偏ってしまうので、練習によって、薄いシューズやちょっとソールが硬めのシューズなども使い分けています」

鈴木健吾選手
写真提供=ナイキ
鈴木健吾選手

マラソンは通過タイムと自身の状態でフィニッシュタイムを予想することができる。だが、鈴木は今回の東京もあまりタイムを意識していなかったという。それよりも“強さ”にこだわっていた。

「試合の目標はタイムより順位ですし、勝負を楽しみたいタイプなんです。自分が理想としている選手像は、速い選手よりも強い選手。状態が悪いときでもしっかりまとめて、勝負の部分で負けないところが本当に強い選手なのかなと思っています」

今回の走りを見れば、鈴木は自身が目指す選手像に着々と近づいているのがわかるだろう。ただし、世界で勝負するためにはまだまだ実力不足だ。

「タイムを強く意識しているわけではありませんが、世界と戦っていくためには、4分台、3分台というのを日本全体で目標にしていく必要があると思っています。私自身まだ成功したとは思っていません。いきなり大きな結果が出るものではないと思うので、地道に自分のできるトレーニングのギリギリのところを積み重ねることで、成功というものがあると思っています」

後ろを気にするのではなく、世界トップの背中を追いかける。鈴木は日本記録保持者でありながら、“チャレンジャー”として臨む覚悟を持っている。

「東京五輪を見て、オリンピックで勝負したい、という思いがすごく強くなりました。メダル争いできるように経験を積んで『強さ』と『速さ』を磨いていきたい」

鈴木の活躍と取り組みはビジネスパーソンにも通じるものがあるだろう。守りに入らずにチャレンジし続ける。何度、失敗してもいい。失敗から学び、成功への道を探る。自分の立ち位置や周囲の評価が変わったとしても、自分自身が目指すべきものを明確にして、そこに向かって一歩ずつ近づいていく。その積み重ねが、大きな成功をもたらすことになるはずだから。

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