一方、JALの経営がここまで悪化するなか、ANAは比較的健闘しています。2007年に目玉事業のひとつであったホテル事業からいさぎよく撤退、自社ホテルをすべて売却し、航空機事業に経営資源を集中させてきました。燃料高に対応するために導入しようとした中型旅客機、ボーイング787の引き渡しが遅れているという誤算はあったものの、JALとは対照的にANAが打ってきた手は迅速で、同社の財務基盤はJALよりずっと健全です。

JALがギリギリのところまで追い込まれたのは、燃料高にも適切な手が打てなかったところに、リーマン・ショックが襲い、対応がすべて後手にまわり、財務がボロボロになってしまったせいです。

JALの損益計算書を見ると、2008年度は営業利益が900億1300万円あり、まだ儲かっていたのですが、2009年度は一転して、508億8400万円のマイナスに転落しました。税金などを引いた最終利益である当期純利益も前年度は169億2100万円あったのに、2009年度は631億9400万円の大幅赤字になってしまいました。

次に貸借対照表です。純資産の合計を、資産で割った数字を自己資本比率といいます。資産を賄っている資金のうち、返済する必要のない資金の比率のことで、会社の中長期的な安全性を表す代表的な指標です。2008年3月末には、22.2%あったこの数字が、2009年3月末には11.2%と、ほぼ半減しています。私の経験上では、製造業など固定資産を多く使う企業では20%、商社など流動資産を多く使う企業は15%が最低ラインです。どんな業種でも10%を切ると危ない。この数字がマイナスになると債務超過に陥るわけです。

この自己資本比率が企業の中長期的な安定性を表すのに対して、短期的な安定性を表す指標が流動比率と当座比率です。

企業が倒産するのは、流動負債(1年以内に返済する義務がある負債)を返済できなくなる場合が最も多いのです。流動資産(現金や預金、売掛金、棚卸資産=在庫など)を流動負債で割った数字が流動比率で、一般的には120%以上が望ましいといわれています。

当座比率は流動比率同様、企業の短期的な安全性を見る指標です。流動資産のなかでもとくに現金化しやすい当座資産(現預金、売掛金、有価証券)を当座負債で割って計算します。一般的には90%以上が安全とされます。

JALの流動比率を見ると、2008年度は122.5%と、まずまずの値だったのですが、2009年度は74.9%と危険水域に入っています。一方の当座比率も、91.0%から52.5%に急落しています。

当座比率と流動比率をここまで悪化させてしまった理由のひとつは「現金および預金」の流出です。2008年度に3549億7700万円あった「現金および預金」が翌年は1636億9600万円にまで半減しています。赤字のために資金が流出したことや借入金の返済などで、手元流動性は大幅に低下しました。

他社はどうでしょう。トヨタ自動車と花王の財務諸表を見てみましょう。2008年度というのは、いわゆる100年に1度といわれた最悪の経済危機があった年です。あのトヨタも赤字決算を余儀なくされました。でも流動比率、当座比率は101.2%→106.7%、流動比率は36.4%→41.3%、どちらも数字を改善しています。

一方、花王の流動比率も134.4%→149.2%、当座比率は80.4%→86.3%と改善しています。両社とも景気が悪化し、事業リスクが高まる時期ほど、現金や預金を増やし、万が一の場合に備えているからでしょう。

財務基盤が脆弱なJALはそれができなかった。安全のために短期的な流動性を積み増すことは難しく、赤字で資金流出するままにするしかなかったといえるでしょう。

※この連載では、プレジデント社の新刊『小宮一慶の「深掘り」政経塾』(12月14日発売)のエッセンスを全8回でお届けします。

連載内容:COP15の背後に渦巻くドロドロの駆け引き/倒産に至る道:JALとダイエーの共通点/最低賃金を上げると百貨店の客が激減する/消費税「一本化」で財政と景気問題は解決する/景気が回復で「大ダメージ」を受ける日本/なぜ医療の「業界内格差」は放置されるのか/タクシー業界に「市場原理」が効かない理由/今もって「移民法」さえない日本の行く末

(撮影=小倉和徳)