地球温暖化の防止に向けて、二酸化炭素を排出しない太陽光発電への関心が高まっています。これは日本企業にとっても追い風で、電機業界にとっての新しいフロンティアにもなっています。太陽光発電の市場規模は2015年には8兆円にまで拡大するという予測もあります。クリーンで安価、いいこと尽くめのように思えますが、この話には裏があります。

世界をリードする国といえば、日米欧の3極、つまり先進国というのがこれまでの常識でしたが、最近は違います。BRICsを中心とした新興国の動向が無視できなくなってきました。BRICsとは、ブラジル、ロシア、インド、中国ですね。世界の大きな方針を決めてきたG8もG20へと移行しつつあります。

こうした新興国の経済成長がますます進むと、エネルギー資源が枯渇し、穀物を中心にした食料も不足してきます。つまり、資源を豊富にもっている国や、他国へ輸出できるほど農産物が豊かな国はこれからますます有利になります。

稀少となった資源は高く売り買いされます。そうすると資源インフレが起こるわけですが、その結果、売れるようになるのが太陽電池です。太陽光はどの国にも平等にふり注ぎ、値段もタダですから、資源のない国ほどありがたい。日本などはまさにその恩恵を受けるわけです。

しかし、ものごとには両面あって、太陽電池が普及したら困る国もあります。どこでしょうか。そう、ひとつは原油国です。でも、そもそも原油には枯渇リスクがあって、早ければ数十年後になくなるかもしれないと言われているので、太陽電池が普及しなくても、近い将来、売るものがなくなって頭を悩ませることになるでしょう。そのため中東産油国では、他の収入減を得るために政府系ファンドでさまざまな国や企業に投資したり、ドバイを世界のビジネス中心地にしようと試みていますが、必ずしもうまくいっているとは限りません。(ドバイはアラブ首長国連邦の一員ですが、産油国ではありません。)

太陽電池が急速に普及すると、いちばん困るのは、実は世界最大の資源国であるロシアです。冷戦が崩壊し、ソ連に代わって誕生したロシアですが、資源問題や領土問題を巡り、エストニア、ラトビア、リトアニアといったバルト3国はもちろんのこと、ベラルーシ、モルドバ、ウクライナ、グルジアなど、旧ソ連邦構成国との間で、キナ臭いにおいが常に漂っています。これは世界一の超大国、米国の威信が落ちていることをも示しています。

ロシアの最大の強みは、その資源のなかでもシベリアから出る天然ガスは世界最大の埋蔵量を誇ります。その利権の大半は国営会社ガスプロムが握っており、生産量の8割を国内消費にあて、残りの2割を、パイプラインを通じて他国へ輸出しています。最大の輸出先はEUです。EUでは石油の3割、天然ガスの4割をロシアに依存しています。このEU向けパイプラインの8割がウクライナを通過しているのですが、2006年、欧米寄りの政策をとるようになったウクライナに対して、ロシアはパイプランを止めてしまいました。これは明らかな制裁です。

ロシアは長期戦略として、パイプライン網を黒海の海底を通してハンガリーまで延長し、そこから南東欧全域はもちろん、北はオーストリアから南はイタリアまで伸ばす計画を立てています。天然ガスのパイプラインは産業の生命線ですから、外貨を獲得するとともに、これをコントロールすることにより、消費国に影響力を及ぼすのがロシアの狙いです。

実際、ロシアは地球温暖化によってむしろ恩恵を受ける国です。温暖化によってシベリアの凍土が溶ければ、農業ができるようになる。鉱物資源を持っていて、さらに農産物を持てれば最強です。

ロシアは原油でも豊富な埋蔵量を誇ります。こうした豊富な資源を背景に、昔日のソ連と同じく、米国に対抗して世界的覇権を握ることを狙っています。当然、アジア向けの戦略も忘れていません。中国にはパイプラインによる大量輸出を計画していますし、日本向けにも2009年から、ガスプロムが経営権を握る「サハリン2プロジェクト」が始動、ロシアからの天然ガスが日本に輸出されるようになります。

でもこれは、逆の意味で、ウクライナと同じ轍を踏む危険がある。日本が米国を怒らせる可能性があるのです。実際、米国は内心、腹立たしく思っているでしょう。ロシアが日本のエネルギーの生命線を握ることになるかもしれない。そんな事態になれば、日米同盟に大きな影響が出てきます。

そうした状況下、太陽光発電が世界中に普及すれば、ロシアはエネルギー外交の威力は減じられます。ロシアの覇権がこれ以上、拡大するのを防ぎたいと思っている米国が、太陽光発電に力を入れる背後には、こういう事情もあるのです。