日本の国民皆保険制度がスタートしたのは1961年のことです。以来、日本人の平均寿命は世界でも有数の長さにまで伸び、日本の医療制度は素晴らしい、と世界から賞賛されてきました。ところがいまはどうでしょう。病院破綻に医師不足、財源の枯渇、医療過誤訴訟と、世界の優等生だった日本の医療が崖っぷちに立たされているような報道が目につきます。

「日本の医療が破綻している」というのは、誤解をまねきがちな表現です。医療全体よりも「病院が破綻寸前」と考えるとこの問題の本質がみえてきます。医療法によれば、ベッドが20床以上ある医療施設を病院、19以下を診療所(あるいはクリニック)と呼びます。「病院が破綻した」というニュースは耳にタコができるほどですが、「診療所が破綻した」という話はほとんど聞きません。いまの医療制度のしわ寄せがすべて病院にいっているのです。

日本医師会という、医師の業界団体があります。会員数は2008年12月1日現在で、16万5360人です。この医師会を構成会員には、A1会員、A2会員(B)、A2会員(C)、B会員、C会員というランク付けがされています。大まかにいえば、A1は、病院や診療所のトップ(もっと平たく言うと病院長や開業医)、A2(B)が勤務医、A2(C)が研修医、それでB会員は医師会がやっている医師賠償責任保険に加入していない勤務医、C会員は同じく保険未加入の研修医です。

会長や執行部の選任など、医師会の諸々の決定は会員の投票によって行われているのですが、不思議なことに、投票権を持っているのはA1会員のみなのです。

A1会員の数は8万4788人で、全体の51.3パーセントを占めます。その内訳を見ていくと、病院開設者(病院長)が4874人、率にしてA1会員のたった5.7パーセントしか占めていないのに対して、診療所開設者(開業医)は7万3715人、同じくA1会員の、こちらは86.9パーセントも占めているのです(残りは病院、診療所の管理者、およびそれに準ずる会員で、A1会員に占める率はあわせて7.3パーセント)。