世界がひとつになる経済のグローバル化がますます進んでいます。2008 年秋のリーマン・ショックに端を発した世界同時不況はまさにその現実を私たちに思い知らせてくれました。それから1年余り、世界経済はようやく立ち直ろうとしています。しかし、いまこそ日本にとって、この不況はどんな意味を持っていたのか、よく考えてみるべきです。結論から言いましょう。このタイミングで世界的大不況がきて、日本はむしろラッキーだったと私は考えています。本当の危機はこれからです。
多くの会社が潰れ、失業者が増えたのに、何がラッキーかと思われるかもしれません。しかし、この不況がなければ、もっと早く外資が日本市場に参入し、会社が買収され、余剰人員が整理される、ということが起こっていたのです。
世界的な経済危機の「おかげ」で、外資が雪崩を打って日本に参入してくるのを遅らせるための時間稼ぎができました。外国資本の流入は、2008 年の秋まではずっと続いていました。
スティール・パートナーズ、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)、マッコーリー・グループなどの外資系ファンドが日本企業に敵対的買収を仕掛け、企業、株主、従業員の危機感をあおりました。行政も司法も振りまわされました。中国やアラブ諸国の政府系ファンドも世界中を席巻していました。
リーマン・ショックが起こって、その動きが止まったのです。サブプライムローンを組み込んだ商品への投資による金融機関の損失が拡大し、お金の流れがストップしてしまいました。しかし、しばらくすれば世界同時不況も収束し、世界的にも新興国を中心に景気は上向いてきていますから、近いうちに止まっていたお金の流れが確実に復活します。
しかも今回の世界同時不況のせいで、世界中の中央銀行は金利を大幅に引き下げたうえに多額資金供給を行ったので、市中にお金が余っています。いき場を失って、じゃぶじゃぶの状態です。景気が回復すれば、そのお金が一気に日本にもやってくるでしょう。
実は、「日本買い」のお膳立ては、10年以上前から整えられていました。「金融ビッグバン」の一環として、1998 年4月1日に「外国為替管理法」が改正され「外国為替法」となって、日本から海外へ、海外から日本へ動くお金の流出入が原則自由化されたのです。
なぜそんなことをしたかというと、冷戦構造が崩壊し、日本だけを世界から切り離して優遇しておく必要がなくなったからです。ソ連が崩壊する前後から、アメリカは日本に対して、自動車部品や半導体の購入、農産物の輸入などを要求してきましたが、日本国内をさらに開放させるために採った政策が外為法の改正でした。資金の流出入を自由にして、「日本は儲かる」と思った外資がすぐにやってこられるようにしたのです。つまり、外為法改正により、アメリカが日本の資金の流出入の「外堀」を埋めてしまったのです。
この外為法改正こそ、「金融ビッグバン」政策の皮切りとなるものでした。皆さんも金融ビッグバンという言葉は聞いたことがあると思います。その中身は何? と聞かれたら、たいていの人は「銀行の金利や手数料が自由化されたこと」と答えると思いますが、金融ビッグバンの本質を一言で言えば、「日本国内の完全開放」なのです。その証拠にそれまで1兆円に満たなかった対日直接投資額がその年から倍増し始めました(もちろん、日本から外に出ていくお金も増えたわけですが)。
よい例がゴルフ場です。バブル崩壊で経営が立ちゆかなくなったゴルフ場がどんどん外資に買収されました。いま日本で最も多くのゴルフ場を保有しているのは最近、株式公開を果たしたアコーディア・ゴルフですが、この企業のバックはゴールドマン・サックスです。一部で「ハゲタカ」と呼ばれた企業買収ファンドも次々に日本上陸を果たしました。