さらに米国は2009年中に一時、中断していた原子力発電所の建設を再開する方針も発表しました。環境への配慮もありますが、中東産油国などへのエネルギー依存度を減らすという、エネルギー安全保障上の狙いもあります。そして、世界最大の原油消費国である米国の石油依存が減れば、資源、それもエネルギーを大量に保有するロシアの相対的地位が下がるという思惑もあるのです。

化石燃料をクリーンエネルギーに置き換えるという取り組みの背後にあるのが、2050年までに二酸化炭素排出量を世界全体で50%減らす、という目標です。先進国(G8)は、さらにふみこんで80%以上削減することで合意しています。

鳩山総理大臣は、就任早々に参加した国連気候変動サミットの演説で、「2020年までにCO2排出量を1990年比で25%削減する」とぶちあげて喝采をうけました。同じ会議で、オバマ大統領は温暖化ガスの具体的な削減目標には触れませんでしたが、「風力など再生可能エネルギーを3年以内に2倍にする」と表明しました。

しかし、二酸化炭素ガス削減問題は、資源を持てる国と持たざる国、産業を持てる国と持たざる国の利害が複雑にからみあい、世界で何らかの枠組みができるまでには相当時間がかかりそうです。新興国は、世界全体で50%削減という長期目標にすら合意しておらず、資金援助を数値目標受け入れの条件とする姿勢さえみせています。

「地球環境のために」とうたうと何でも正しく美しく聞こえますが、温暖化対策は経済成長やエネルギー取引と密接に絡んでくるため、背後には各国の戦略的な駆け引きがドロドロに渦巻いているのです。

先週、コペンハーゲンで国連気候変動枠組み条約会議(COP15)が開幕しました。2013年以降(ポスト京都議定書)における温暖化ガス削減の中期目標を決める交渉の期限になっていますが、議論は紛糾し、意味のある結論には至らない可能性が高いと私は見ています。

鳩山総理の「25% 削減発言」は、国内外でおおむね好評だったものの、本当に目標を達成するためには、国内産業および国民生活が負担を強いられるのは必至です。家計に年間36万円の負担がかかるという試算もあります。太陽電池普及で潤う産業もあれば、衰退する産業もあるでしょう。エネルギー政策の変更は、国内でも難しい舵取りを迫られます。

そして、こうした国際公約を日本がしたことにより、もうひとつの懸念があります。日本は言いだした以上、その時の政権がどこであれ、その目標達成を行わなければならなくなります。太陽光発電や燃料電池車、電気自動車などの技術進歩でそれを行えれば問題はないのですが、そうでなかった場合には大変です。大量の排出権を買わなければならないからです。

二酸化炭素の排出権取引は、二酸化炭素を排出しない国からその排出権を売買する仕組みですが、市場が未熟です。日本が大量に排出権を購入すると、排出権が暴騰する危険性があります。その際に、排出権を誰が買うのか、という問題が起こります。企業か買うのか、それとも、国が他国から買うのか。いずれにしても、日本の誰かが負担することに変わりはありません。技術革新が進めば、排出権取引の問題もなく、かつ二酸化炭素排出量が減るのですから、これは本当に喜ばしいことなのですが、そうでなかった場合には、また大きな問題が起こる可能性があることを指摘しておきます。

※この連載では、プレジデント社の新刊『小宮一慶の「深掘り」政経塾』(12月14日発売)のエッセンスを全8回でお届けします。

連載内容:COP15の背後に渦巻くドロドロの駆け引き/倒産に至る道:JALとダイエーの共通点/最低賃金を上げると百貨店の客が激減する/消費税「一本化」で財政と景気問題は解決する/景気が回復で「大ダメージ」を受ける日本/なぜ医療の「業界内格差」は放置されるのか/タクシー業界に「市場原理」が効かない理由/今もって「移民法」さえない日本の行く末

(撮影=小倉和徳)