ロシア軍によるウクライナへの攻撃が続いている。ウクライナ人の国際政治学者グレンコ・アンドリーさんは「わが国は『核廃棄の代わりに安全を保障する』という友好国のウソを信じてしまった。たとえ友好国や同盟国だとしても、他国の言葉にすべて従う国は滅びるのだ」という――。

※本稿は、グレンコ・アンドリー『プーチン幻想』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

2022年3月9日、ロシアの攻撃が続く中、ウクライナのハリコフ中心部で3月1日に爆撃されたハリコフ知事公邸。
写真=AA/時事通信フォト
2022年3月9日、ロシアの攻撃が続く中、ウクライナのハリコフ中心部で3月1日に爆撃されたハリコフ知事公邸。

米英露の「詐欺」に引っかかって非核化

1994年、ウクライナとアメリカ合衆国、イギリス、ロシアがブダペスト覚書を結んだ。1993~96年に核兵器の処分作業(ロシアへの輸送、インフラ解体、爆破など)が続き、96年2月に最後の核弾頭がロシアへ輸送された時点でウクライナは核保有国の地位を失い、正式に非核国となった。

それでは、このように無条件で核兵器を放棄したウクライナは、代わりに何を得たのか。

核兵器の放棄に関する交渉が行われた際、ウクライナの安全保障について放棄の代わりに何らかの形での保障が必要である、ということは交渉国すべてが認めていた。

しかし実際の交渉においては、ロシアはもちろん、英米も不誠実であった。様々な形での保障が検討されたが、英米露が考えたのは、いかにすれば実体のないものを安全の保障にする約束に見せかけることができるか、ということであった。

つまり、ウクライナには「自国の安全が国際的に保障される」と思わせなければならないが、仮にウクライナの身に何かがあっても、安全を保障した国々には何の責任も持つ義務がないような内容にしなければならない。

なぜなら、英米はウクライナの核兵器をなくすことには必死であったが、ウクライナの運命そのものにはほとんど興味がなかったからだ。本音では、ウクライナがどうなろうが、当時の英米の指導者にとってはどうでもよかったのだ。

言葉の上では「ウクライナに十分な保障を与える」という点が何度も交渉において強調されたが、この発言は形式的な外交上の儀礼にすぎなかった。核兵器を放棄させるだけで終わり、というのは諸外国から見れば印象が悪いし、当時の無能なウクライナの指導者ですら、何らかの保障を希望していた。

したがってウクライナの安全を保障する国際合意が必要であり、なおかつ、それを何の義務も実体も伴わないものにしなければならなかった。かなり難しい課題だが、当時のウクライナの指導者や外交官があまりにも無能であったので、ウクライナは英米露の「詐欺」に引っかかってしまった。