変化し続ける社会で「自分らしさ」をどう見つけるか

しかし、僕らにも自分がある。いわゆる自我というものです。自分の自我を確立するためには、一度その大きな物語から外に出て、その大きな仕組みと戦うことが必要でした。大きな物語があった時代において、青春時代に一度外に出て、グレる、反抗するというのは、自分のアイデンティティを確立していくための過程だったのです。

佐宗邦威『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)
佐宗邦威『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)

しかし、いまは、インターネットによって多様性の時代になりつつあります。「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」や「フォートナイト」など、ひとつのゲームに参加するといっても、その目的や楽しみ方もそれぞれです。

ここには絶対的な物語がありません。常に変化し続ける流動的な社会のなかで、生きていく際に起こるのは、自分は誰なのか? という問いです。なぜなら、戦うべき絶対的な権威も物語もないからです。

この時代に、自分らしさをどのようにして感じて生きていけばいいか。そのキーワードが創造です。自分の内面を見つめ、引きこもるのではなく、何かを表現して出してみる。自分の内面は、何かしらの作品となることで他の人にとって理解できるものになります。そして、他の人からの評価や反応をもらうことで、新しいモチベーションが生まれ、自分が生きている実感を得られるようになる。

自分の生きていく意義をつくりだせるのが「創造力」

創造とは、かつてのような絶対的な物語がなくなり、自分自身の存在意義を実感しにくい時代に、自分が自分で自分の生きていく意義をつくることができる力なのです。哲学者のマルクス・ガブリエルは、この流動化する時代においては、「人と人の間で生まれる無数の意味の場」こそが拠り所になると言いました。

これから僕たちが表現できるキャンバスはさらに広がっていきます。リアルの世界においても、デザインやアートは非常に重要になってきています。デジタルの世界では、ゲーム、バーチャルリアリティをはじめ、まだ想像できていないものも含めて、無数の新しいキャンバスが生まれるでしょう。

誰もが自らのキャンバスを選び、自分を表現していく生き方をすることで、希望をつくれるようになる。そんな時代になるとしたら、次の時代は、多くの人がつくり出した彩りのある希望に満ちた時代にしていけるのではないかと思います。

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