遠隔医療、瞑想…続々誕生するグレーゾーンにいる人へのサービス
このバーンアウトしている人たちに対して、世界的に対処していこうという論調が出てきていて、「医療に隣接する領域」から、バーンアウトしてしまっている人たちのためのサービスもたくさん生まれてきています。
例えば、アメリカで2021年の1月にサービスを開始した遠隔医療サービスPace(ペース)は、心の健康の「グレーゾーン」にいる消費者、つまり精神疾患と診断されていなくても、燃え尽き症候群や気分の落ち込み、ストレスなどに悩まされている人を対象に、バーチャルグループセラピーを提供しています。
このサービスでは、共通の関心事やアイデンティティを持つ8〜10人の個人をオンラインでつないで、週1回のライブビデオセッションで感情や悩みを共有しています。
ほかにも、気分がふさぎ込むようなメディアの記事に触れないように、有害なニュースの消費やネガティブなエコーチェンバーからユーザーを守るためのアプリもあります。
2019年4月に発売されたGem(ジェム)のアルゴリズムは、扇情的な記事を非表示にし、より意味のある記事だけを表示させるニュースキュレーションアプリです。
マイクロソフトも、瞑想アプリで有名な「Headspace(ヘッドスペース)」とコラボレーションをして、チームスの利用者向けに、「そろそろ休憩をした方がいい」とか、「瞑想をサポート」するような機能を実装しようとしているそうです。
理不尽さに耐える能力がますます求められる
さて、バーンアウトした若者たちの現状についてお話ししましたが、医学領域とは全く別の領域から、新しい「セルフケア」の潮流が生まれていることはご存じですか。
実は、セルフケアをハードコアに実践する若者たちの間で、スピリチュアリティにも大きな関心が寄せられているんです。
穏やかで、健康的な生活を追求していくと、食事や睡眠などのサイエンス的な「健康法」の実践だけではなくて、超越的なものに「生きる意味」を求めたり、日々「祈ること」がメンタルヘルスにいい影響を与えてくれるところまで考えや実践が及んでいくことは、みなさんも想像に難くないと思います。
「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉があります。
これは、親しい友人の突然の死とか、大災害など、説明のつかない理不尽な状況におかれた時、それをどのように「耐える」か、その忍耐力を指す言葉です。
例えば、親しい友人が交通事故にあって、ある日突然、亡くなってしまったとします。
サイエンスの説明としては「運転手の不注意で、自動車が時速100キロでぶつかったから、その人は亡くなった」となるわけですが、あなたは「なぜ、彼が、あの時に亡くならなければならなかったのか」ということには納得できません。
その問いには、誰も答えてくれません。しかし、あなたはその問いを問わざるを得ない。この理不尽な状況に対して、人は耐えることができません。
このような時、科学的な因果関係の説明は何も役に立たないのです。
この理不尽さに耐える能力こそ、「ネガティブ・ケイパビリティ」です。
パンデミックになった今、現実の世界がより「理不尽」であればあるほど、「ネガティブ・ケイパビリティ」が必要になっています。ウイルスが広がっていることはわかる。
だけれども、なぜ、お葬式もリモートでやらねばならないのか? なぜ、学校で友人にも会えないのか? 今、私たちはまさにこの能力が求められていると思うんですね。