1人バイトを雇うには15人の客が必要

もう一つはスタッフの使い方だ。今のところ黒田が一人で作っているが、混み合う時間は対応しきれない。テイクアウトやデリバリーもこなしていくには、アルバイトを効率的に使う必要があった。

仕込み中の黒田さん
筆者提供
仕込み中の黒田さん

人を雇うのはコストが高い。時給は1200円なので、仕込みから後片付けまで一日働いてもらえば、1万円を超えてしまう。トッピングやドリンクのセットで客単価900円に材料費が200円かかるとすると、一人あたりの粗利は700円になる。人件費をまかなうには15人客数を増やさなければならない。二人雇えば30食だ。

そこまでの見通しが立つかといわれればむずかしいというしかないが、時間を作らなければ次の展開ができない。何でも自分だけでこなしていくには限界があった。

「フードトラックをやってみようと思ってます」
「もうかるものなの?」
「場所次第ですね。人通りが多ければ、近くにレストランがあってもそれなりにニーズはあります。大手町のサンケイビル前あたりでできれば最高ですね。キッチンカーを準備するのに300万円ほどかかるんですが、一日100食以上の売り上げが出るのであれば、元は取れます。店の宣伝にもなりますしね」

すでに開業支援の研修会に参加したという。成功事例の紹介や保健所の検査対応が中心で、こういった会にも店をアルバイトだけで回していかない限り参加できない。早急に対応する必要があった。

起床は朝8時、帰宅は深夜1時前

黒田の一日は長い。朝8時に起きて、8時半には店に来ている。住んでいるのは、下北沢の北口だ。コンビニで朝食を買い、店の片づけをしながら食べる。9時半から仕込みに入り、豚肉や卵が届き、キャベツを切る。

10時半頃アルバイトの学生が来て、麺をゆではじめる。ゆで置きすることで、麺にもっちり感が出る。ランチは3時ラストオーダーで、5時くらいまで休む。業者との打ち合わせはこの時間が多い。

午後はたいてい11時まで店を開け、家に帰るのは深夜1時前だ。フードトラックの確認や看板の製作などは、こういった時間しか手をつけられない。好きでなければ続けることのできない生活だった。

実は、開店前日の6月30日に大ケガをしていた。翌日の開店準備に加えて、仲の良い先輩が主催するイベントに招待されており、目の回るような忙しさだった。階段で足を滑らせて転げ落ち、気づくと全身打撲で道路に転がっていた。

すぐに救急車を呼んで大事には至らなかったが、頭を4針縫うことになった。翌日も働けたのは、若さゆえだろうか。しばらく全身の痛みが消えなかった。波乱万丈のスタートだった。