日本のデジタル化の遅れは「デジタル敗戦」と呼ばれる。この言葉の生みの親である元警察官僚の中谷昇さんは「サイバー強国と呼ばれる米中英に比べて、日本はほぼ何もできていないと言っていい。国土を守るサイバー防衛のためのシステムを、早急に整備する必要がある」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、中谷昇『超入門 デジタルセキュリティ』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

コンピュータシステムハッキング警告
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「デジタル復興」ではなく「デジタル敗戦」がハマった

米国や中国などはデジタルデータを使った活動を積極的かつ徹底的に行っていて、それが国家戦略の重要な基盤になっている。しかし日本は、この分野でも立ち遅れている。

こうした状況は「デジタル敗戦」と言われる。デジタル敗戦という言葉は、平井卓也前デジタル大臣がブログで2020年に使って以来、社会的に定着した感がある。

じつはこのデジタル敗戦というフレーズには個人的な思い入れがある。

というのは、私が日本IT団体連盟の役員の立場で、2020年6月に当時自民党デジタル社会推進特別委員長だった平井前大臣にこのフレーズを使って日本のデジタル化の現状を説明をした際、平井前大臣が気に入ってくれて「政治デビュー」を果たしたからである。

平井前大臣のようにルール形成に影響力のある政治家に活用してもらえたのは望外の喜びであった。ちなみに、その際に「デジタル復興」というフレーズも使ったのだが、これはイマイチとなったようである。

「デジタル敗戦」とは、日本のデジタルトランスフォーメーション形成が遅れており、すでに世界に敗れていることを指すのだが、日本政府は、2001年の段階ですでに、「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」を内閣に作り、「e-Japan戦略」を策定していた。

「敗戦」の事実としっかり向き合うべき

総務省は当時すでに、

「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成、教育及び学習の振興並びに人材の育成、電子商取引等の促進、行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進、高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保」

を掲げていたが、いまだに同じようなことを言っていると、読者の皆さんもお気づきだろう。

新型コロナ禍でも、「特別定額給付金」のオンライン申請がうまく機能せず、感染者との接触を知らせるスマホアプリ「COCOA」でも不具合が出て活用できなかったことなど、デジタル分野の弱さを露呈する結果=デジタル敗戦の典型例になっている。

民間も然り、である。

米デル・テクノロジーズ社が2021年に公開した「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」によれば、日本においては約91パーセントの企業で、デジタル化がまだ進んでいないことを明らかにしている。

だからこそ、これから「デジタル復興」をすべきなのである。復興にはまず、敗戦した事実としっかり向き合い、先に進む必要がある。