介入しないことが資本主義

私が「3C」と提唱したとおり、強い企業は、顧客(Customer)、組織(Company)、競争相手(Competitor)の「3つのC」を考えて、マーケットが好む商品を提供する。現在のボーダーレス社会では、世界で最も安くて良質な材料を仕入れ、人件費が安く良質な労働力がある場所で生産し、高く買ってくれる場所で販売する。“世界最適化”は自由なマーケットを前提に成り立っている。政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ。

企業に「賃上げしたら税金を安くするよ」というのは、マーケットへの介入だ。資本主義でもなければ自由主義でもない。岸田首相の「新しい資本主義」は、すでに失敗が証明されている全体主義、あるいは計画経済の発想だ。

さらに、腰が抜けるほどびっくりした政策がある。4月以降、賃上げを表明した企業は、公共工事などの政府調達の入札で優遇するというのだ。

政府調達の財源は税金だ。企業努力をせずに賃上げだけをして人件費が増えれば、入札価格は高くなる。入札の原則は「一円でも安く」することなのに、入札価格が高い企業のほうを優遇して税金を多く払うというのは、犯罪的行為だ。

そして、「上に政策あれば下に対策あり」という言葉のとおり、合理的な経営者はきっとこう考えるだろう。

「人件費を高くするくらいなら、賃金が安い海外に、仕事をアウトソーシングしよう。その分、国内の従業員は減らす。社内には特に優秀な人間だけ残して、賃上げする。これで人件費は抑えられ、法人税の負担は減り、公共事業も受注しやすくなる」

このように、賃金と雇用は相反関係だ。賃金を上げて人件費の負担が増えれば、雇用は減る。従って、分配を訴える「新しい資本主義」こそ、実態は国内の雇用減少を促す格差拡大政策なのだ。

やはり岸田首相の「新しい資本主義」は、21世紀の経済原則を理解していない。

1980年に出版された『第三の波』で、アルビン・トフラーが脱工業化社会と情報化社会を予測した。実際にIT革命は起こり、世界中で生産性が高まった。しかし日本では、いまだに生産性が向上せず平均賃金は韓国以下。DXが進まず、仕事を奪われないようにDXに抵抗する人たちもいる。

例は、建築確認申請だ。住宅やビルを建てる際に自治体に提出する建築確認申請はIT化されていない。数十ページの申請書を風呂敷に包んで持っていき、最大35日以内に審査されることになっている。2005年に耐震強度偽装の姉歯事件が起きたあとは、高いビルは第三者機関の審査が必要となり、最大70日まで審査期間は延びた。申請にかかる手間と時間は膨大だ。