馬刺しは、冷凍で寄生虫リスクを管理している
なお「牛刺しや牛タタキは厳格な規格基準があるのに、どうして馬刺しは簡単に食べられるの?」という疑問もよく聞きます。馬刺しでリスクにつながることがわかっているのは、住肉胞子虫と呼ばれる寄生虫。馬肉からは腸管出血性大腸菌は検出されていません。この寄生虫は−20℃(中心温度)で48時間以上冷凍することなどで失活することがわかっているので、馬刺し用の肉は現在、すべて冷凍された後に流通しています。
肉の調理は、菌やウイルス、寄生虫などの微生物との闘いです。ところが、簡単・おいしいを追求するあまり、生や低温調理が推奨され、検証されていないレシピが氾濫しています。微生物の専門家である山本茂貴・食品安全委員会委員長はこの風潮について警鐘を鳴らします。
「日本人は生の魚介類を刺身や寿司として食べる習慣があるので、よく生食文化という言い方をされます。しかし、食肉の生食は日本の文化とはいえないでしょう。たしかに、馬刺しや鶏タタキを食べる習慣のある地域はあります。しかし、他地域が形だけをまねて原材料の状況も考慮せずに生で食べるのは危険です。加熱条件を確認しながら殺菌に十分な加熱を行うことが必要です」
料理は科学です。料理の専門家も一般の人も、科学的な条件を検討していないレシピは慎んでほしい、と切に願います。食品安全委員会では、注意を呼びかける動画や評価書、調査報告書などを多数公開しています。厚労省も規格基準のQ&Aなどで細かく説明しています。科学に基づく調理で、安全を守った「簡単・おいしい」を目指しましょう。
(記事は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます)
<参考文献>
食品安全委員会・食中毒予防のポイント
食品安全委員会・食肉や内臓の生食について
食品安全委員会・カンピロバクターによる食中毒にご注意ください
内閣府食品安全委員会公式YouTubeチャンネルについて
食品安全委員会・2020年度調査事業「加熱調理の科学的情報の解析及び画像の開発」報告書
食品安全委員会・ジビエを介した人獣共通感染症
厚労省・食中毒