鶏肉は「中心部まで75℃1分間以上」
個人的な話ですが、私の若い友人に3回食中毒にかかった人がいます。すべて、東京のある店の鶏タタキを食べた後に発症。しかし、症状が軽いので回復してしばらくするとまた、食べてしまうとか。「その時は軽くても、後遺症が出るかもしれない」と告げても、聞いてくれません。保健所には届けていないとか。
飲食店が依然として生食を提供する陰には、こうしたリスクを侮る消費行動があります。
そして、サラダチキンブーム。やわらかくジューシーに、と追求するあまり、加熱不足でカンピロバクターが生き残ってしまうのでは、というレシピが散見されるのです。
鶏肉の加熱条件は、牛肉に比べ厚みがなく形が複雑であることや、菌が浸潤する可能性も考えて、中心部まで75℃1分間以上加熱するべき、とされています。70℃なら3分間、63℃であれば30分間です。
近年、鶏肉の低温調理が流行していますが、この加熱条件をしっかりと守らないと安全は守れません。
食品安全委員会の調査事業では、低温調理器を用いて300gの鶏ムネ肉を63℃で加熱した場合、肉の温度が上がるまでに平均68分かかりました。中まで加熱するにはさらに30分間温度を維持する必要があり、調理に計100分ほどの時間を要しました。
70℃や75℃の調理の場合も、同様に肉の内部温度が上がるのに平均して70分程度が必要。その上で、3分間とか1分間の温度維持をしなければなりません。
鶏肉の内部温度も牛肉と同じで、実際には非常に上がりにくいものだ、ということが調理者に理解されているでしょうか。
「火を消して放置」は危ない
サラダチキンでよくあるレシピ、「鍋でお湯を沸騰させ、袋に入れた鶏肉をドボン。鍋に蓋をして火を消して放置する」では、牛肉と同じようにあっという間に湯の温度が下がってしまいます。肉の中心部の温度を75℃1分間とか63℃30分間にわたって維持するのは困難です。
ラップで鶏肉をくるっと巻いてソーセージ状にする「鶏ハム」と呼ばれるものも怖い形状。鶏肉の外側の菌が付いている部分が内側に入り込み、殺菌できないまま口にする可能性があります。
なお、鶏肉も十分な加熱が済んでいるかどうか、外見や断面の様子ではわかりません。結局のところ、鶏肉の低温調理は、専用器具で温度を管理するか、鶏肉を鍋の湯の中に入れた後、湯や肉の温度を測定しながら加温し続ける必要があります。