優しい人を装って近寄ってくる

そんなとき、上司のIさんから「重要な話がある。会社ではできないので」と食事に誘われた。以前、クレームがきたという取引先に謝罪に行ってくれたことを思い出し、Hさんは誘いに応じた。そこで聞かされたのは、「先日結婚して退社したJ君が君をストーカー容疑で訴えると言っているらしい」という話だった。

寝耳に水だったので、「まさか……どうしてですか」と理由を尋ねた。すると、Jさんの結婚の噂を社内で耳にしたHさんがJさんの携帯に何度も電話したことを、Jさんがストーカー行為と受け止め、警察に相談したということだった。

たしかに、Jさんが結婚すると聞いて、驚いたHさんは携帯に電話し、「結婚するって本当? 私たち、つき合ってたんじゃなかったの」と問い詰めた。だが、Jさんは何も言わずに切ってしまい、その後はずっと着信拒否だった。だから、そのうちにあきらめて電話しなくなった。

また、Jさんが当時一人で住んでいたマンションの玄関の前まで行ったことも一度あるが、オートロックなので、インターホンを鳴らしても解錠してもらえず、入ることはできなかった。しかも、それからまもなくJさんは有休消化とかで出社しなくなったので、顔さえ見ていない。それくらいのことでストーカー呼ばわりされるなんて、Hさんとしては信じられない思いだった。

自宅の床に座り悲しむ女性
写真=iStock.com/kieferpix
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「君が逮捕されかねない」と仲介役を買って出るが

しかし、Jさんが警察に相談したと聞いて、Hさんは大変なことになったと感じて不安になり、上司のIさんに「どうしたらいいでしょうか」と尋ねた。すると、Iさんは「このまま放っておくと、J君が警察に被害届を出して、君が逮捕されることになりかねない。優秀な君がうちの部署からいなくなるのは困るので、僕がJ君に会って、被害届を出さないように頼むよ。君はあまり表に出ないほうがいい」と答えた。Hさんは、本当に親切な上司だと思い、「よろしくお願いします」と言って、その晩は別れた。

2週間後に再び上司のIさんから食事に誘われ、その席で「J君に会って、『被害届を出すのはやめてくれ』と頭を下げて頼んだら、『先輩の頼みですから断れない』と言ってくれた」と聞かされた。Hさんはほっとして、「ありがとうございました」と感謝した。一安心したこともあって、勧められるままにワインを飲み、ぐでんぐでんに酔っ払った。その後ホテルに行って男女の関係になり、それから関係がずっと続いているという。